全ての病院にBCP策定の必要がある

現在、BCPの策定が義務付けられているのは災害拠点病院のみ。しかし、自然災害が頻発する近年では、被災者の受け入れは災害拠点病院に限られるものではありません。現段階では、災害拠点病院にのみ義務化されているBCPの策定及び実施。しかし、災害拠点病院でも策定率100%ではありません。自然災害が頻発する現代において、今後全ての病院への義務化も考えられるBCPについて、義務化された理由や病院におけるBCPの現状などについて説明します。

被災により病院機能が低下すれば、災害そのものだけでなく災害関連による死者も増大します。そのため、緊急時の人的・物的体制や早急な復旧を目的としたBCP策定は全ての病院に必要不可欠なものであると言えます。

災害拠点病院のBCPが義務化されたのは、熊本地震の影響

2016年4月14日及び16日に発生した熊本地震では、わずか28時間の間に最大震度7が2回、震度6の地震が5回発生。住家被害は13万件を超え、熊本県内の約6割の医療機関が被災しました。

病院機能が低下したために亡くなった人も少なくなかったため、厚生労働省はこの経験を踏まえて災害拠点病院の指定要件にBCP策定の義務化を追加。被害を受けても速やかに機能を回復し、診療を続けるための業務継続計画の策定が、災害拠点病院の必須要件となっています。

病院のBCP策定現状

令和元年5月に実施された病院のBCPに関する検討会において、発表された平成30年12月1日時点でのBCP策定状況は以下の通りです。

BCPの策定状況等調査の結果の概要(抜粋)

策定状況(平成30年12月1日時点。医療施設動態調査(平成30年9月末概数)の病院の施設数8,372病院)が対象。 【速報値】

総数回答数未回答数回答率BCP策定有り割合BCP策定無し割合
(※3)
災害拠点病院7366904693.80%49171.20%19928.80%
救命救急センター
(※1)
76185.70%466.70%233.30%
周産期母子
医療センター
(※2)
79681186.10%2130.90%4769.10%
上記以外の病院7,5506,5301,02086.50%1,31020.10%5,22079.90%
全病院8,3727,2941,07887.10%1,82625.00%5,46875.00%

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※1 災害拠点病院を含まない。指定要件としての明示なし。

※2 災害拠点病院及び救命救急センターを含まない総合・地域周産期母子医療センターの和。総合周産期センターは指定要件としての明示あり。

※3 回答数に対するBCP策定無しと回答した病院の割合。

2017年3月の厚生労働省通知により、BCPの策定が義務化された災害拠点病院ですら、策定率は71.2%。災害拠点病院、救命救急センター、周産期母子医療センター以外の病院に至っては、全体の20.1%とほとんどBCPの策定が進んでいないのが現実です。

医療機関は、人工呼吸器や人工心肺装置、輸液ポンプなど、命と直結する医療機器も数多く使用しています。災害により医療設備の被害、ライフラインの途絶が生じた場合でも、入院患者や被災患者を治療し続けなければなりません。

そのため、非常時の患者の搬送先や緊急時の業務内容、その準備態勢などを整えるために、全ての医療機関がBCPを策定する必要があります。

病院における災害対策に関わる設備状況

第21回救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会において、発表された全医療機関における災害対策に関わる設備状況等については以下の通りです。

病院における災害対応に関わる設備状況等について 調査結果(平成30年12月1日時点)
<全医療機関>災害拠点
病院
指定要件
※11
総数回答数有(%)未回答
※13
①非常用自家発電設備の有無※18,374
※12
7,4436,538
(87.8%)
905931
②水(飲用でも使える)を備蓄する
受水槽の有無※2
8,3747,4036,721
(90.8%)
682971
③地下水(井戸水)確保の有無※38,3747,3492,940
(40.0%)
4,4091,025
④ ③の回答が「有」の場合、
浄水設備の有無※4
2,9402,914809
(62.1%)
1,10526
④災害時非常食の備蓄状況
(患者用の一般食の備蓄) ※5
8,3747,2857,005
(96.2%)
2801,089
⑥ 衛星電話の有無8,3747,3681,777
(24.1%)
5,5911,006
⑦災害時に優先通信を行える回線の有無※68,3747,3474,424
(60.2%)
2,9231,027
⑧病院のEMISアカウントの有無8,3747,1956,091
(84.7%)
1,1041,179
⑨病院のEMISのID、パスワードの
関係者間での共有の有無
-8,3746,9814,481
(64.2%)
2,5001,393
⑩敷地内における倒壊の危険性のある
ブロック塀の有無※7
-8,3747,334706
(9.6%)
6,6281,040
⑪在宅呼吸療法患者用の
簡易自家発電源装置の整備の有無※8
-8,3746,183257
(4.2%)
5,9262,191
⑫在宅人工呼吸患者の連絡先等の
リスト化の有無※9
-8,3746,7081,615
(24.1%)
5,0931,666
⑬BCP策定の有無※108,3747,3322,072
(28.3%)
5,2601,042

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※1:「〇〇東側」等、設置場所と思われる記載のみの回答、他施設と共用であるとの回答等があったが、回答内容から、その保有形式にかかわらず、非常用自家発電設備を有すると想定される回答は「有」と判断。

※2:他施設と共用であると回答している場合は「有」と判断。

※3:一部の回答において、「有(トイレ用)」、「有(飲用以外)」等、有無以外の情報提供があったが、回答内容から、その確保形式にかかわらず、地下水(井戸水)の確保を有すると想定される回答は「有」と判断。

※4:※3と同様に、回答内容から、その確保形式にかかわらず、地下水(井戸水)の確保を有すると想定される回答は「有」と判断。ただし、地下水(井戸水)が飲用可能なため設置していない場合は、「無」と判断。

※5:非常用として、何らかの食料の備蓄を行っている病院数。備蓄量は問わない。備蓄量が最も少ない病院では1食分、備蓄量が最も多い病院では1年分であった。

※6:携帯電話、アナログ回線、公衆電話、ライン等、有無以外の情報提供があったが、回答内容から、その確保形式にかかわらず、災害時に優先通信を行える回線を有すると想定される回答は「有」と判断。

※7:「有(外部の駐車場)」、「隣の敷地には有」等、所在地に関わらず敷地内に倒壊の危険のあるブロック塀の存在が想定される回答は「有」と判断。

※8:患者へ貸し出し中の簡易自家発電源装置も含む。事業者が対応するとの回答や在宅人工呼吸患者の該当がないとの回答は「無」と判断。

※9:在宅人工呼吸患者の該当がないとの回答は「無」と判断。

※10:平成30年12月1日時点の調査において、BCP策定がない又は未回答であった245の災害拠点病院について、すべての病院でBCP策定が行われていることを確認済(令和2年5月29日時点)。

※11:「◎」は、義務としている要件。「〇」は、望ましいとしている要件。「―」は、指定要件に記載なし。

※12: 「第14回救急・災害医療提供等の在り方に関する検討会(令和元年5月23日)」及び「病院の業務継続計画(BCP)策定状況調査の結果(令和元年7月31日プレスリリース)」で報告した調査対象病院の総数は、「医療施設動態調査(平成30年9月末概数)」の病院数を参照し8,372病院としたが、今回の報告にあたり、都道府県から報告のあった調査対象病院の合計を再度集計したところ、8,374病院であったため改めて修正し報告する。

※13:空白等の未回答にくわえ、「-(ハイフン)」、「0(ゼロ)」等、明確に判断することができない不明な回答を含む。

現状で設備が整備されていると回答があった上位3つは、「災害時非常食」「受水槽」「非常用自家発電設備」。少なくともこの3つは確保しておく必要があります。

また、停電時であっても、生命を維持するための医療機器に電力を供給する「非常用自家発電設備」は特に重要です。BCP策定が義務付けられていない災害拠点病院以外の病院であっても、整備しておく必要があります。

参照元:第21回救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会(令和2年8月21日)(PDF)(https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/000661209.pdf)