非常用電源を準備するために必要な知識
自然災害リスクが大規模停電リスクを引き上げている
近年の日本は、自然災害による大規模停電のリスクが高まっています。毎年のように過去最大級と言われる規模の台風や集中豪雨などが発生し、その度にどこかしらで停電が発生しているのです。送電塔や電柱を経由して電力供給を行うシステムは災害に弱いという指摘は幾度となくされていますが、それが証明されているのが現状です。
みなさんの記憶に新しいところでは、2019年9月に千葉県の房総半島を中心に深刻な爪痕を残した台風15号でしょう。最大瞬間風速57.5mを記録し、送電塔がなぎ倒され90万戸以上の大規模停電が起きました。
今後30年以内の発生確率が70%と言われている首都直下型地震や南海トラフ地震が起きれば、千葉の被害を超える大規模停電は避けられません。2020年末から明けて2021年年頭に発生した、日本海側の大寒波による大雪も大規模停電を発生させかねないリスクです。2021年梅雨に起きた熱海の土石流のような事象が、会社の近隣で起きることもあるでしょう。
このような自然災害の激甚化に対応するため、非常用電源の準備を進める企業や自治体が増えているのです。
なぜ日本の非常時は「72時間」にこだわるのか
日本においては非常用電源に関わる目安として「72時間」と言われています。
この「72時間」という時間を、ニュースで耳にした覚えがある人は大勢いると思いますが、災害で行方不明(安否不明)になって方の生存率が落ちるのが72時間以降だからです。つまり飲食ができない状態で、人間が生還するには72時間以内に救出する必要があるということです。
出典:内閣府防災情報:災害が起きたら、あなたはどうしますか?~みんなで地区防災~
その72時間が非常用電源の基準として使用されています。救助される側としては、救助されるまでの時間が倍に伸びる、救助する側としては重機などの電源として使用できて救助活動の効率化が図れるなど、考え方はいろいろあると思いますが、正直論拠に乏しいのが実情です。
企業の非常用電源は72時間では賄えない可能性
この72時間を起業活動に当てたらどうなるでしょうか。
まず、電力がなにかしらの災害が理由で大規模停電に陥ったときに、電力の復旧には1週間〜2週間かかると言われています。事実以下のような事象が残っています。
発生時期 | 災害 | 電力の復旧期間 |
---|---|---|
2011年3月 | 東日本大震災 | 約8日後 |
2018年6〜7月 | 西日本豪雨 | 約1週間後 |
2018年9月 | 北海道胆振東部地震 | 約2日後 |
2019年9月 | 台風15号 | 約2週間後 |
参考:HONDA発電機
企業が72時間の非常用電源を用意した場合、(どこを基準に72時間分にするかによりますが)電力網が復旧する前に、電源が底をつく可能性がありえます。少なくとも企業活動が行える電力量1週間分は備える必要がありそうです。
実際に72時間にこだわらず、必要な分以上の非常用電源を確保している企業や自治体があります。日本経済新聞が2019年に実施した調査では1741市区町村のうち3%は「1周間以上に渡って非常用電源の稼働が可能」と答えています。
保険会社の総資産ランキングトップの日本生命では、本店東館においては72時間分の非常用電源を準備していますが、それ以外にもリチウムイオン蓄電池を備えていて、72時間以上の活動が可能になっています。
電源種別と選定する内容
日本生命のように、非常用電源種類をミックスさせるのが効果的です。ただし、いろいろな電源があるので、どうミックスするか考える必要があります。まずはどんな電源があるかを見てみましょう。
種類 | メリット | デメリット |
---|---|---|
ディーゼル発電機 | 燃料のコストが安い | 排気ガスと振動が出る |
ガソリン発電機 | 持ち運べる小型が主流 | 災害時に燃料を調達しにくい |
LPガス発電機 | 燃料を長期間保管できる | 上記2種よりも燃費が悪い |
蓄電池 | 用途に合わせて選択できる | 大容量電気の供給に向かない |
EV(電気自動車) | 移動手段の機能もある | 購入コストが高い |
太陽光発電システム | 長期間の電力供給が可能 | 初期費用がかかる |
まず企業向けの基本として、小回りの効くタイプをマストで用意しましょう。小回りの効くのはディーゼル、ガソリン、LPガスなどです。また蓄電池は屋内でPCやスマホの充電に適していますので、それらを合わせて非常用電源を構成するのが良いでしょう。
定期点検を怠ると非常時に機能しない
どの種類であれ非常用電源を設置・導入したから安心、というわけにはいきません。これらの設備は定期的に点検しなければ、有事の際に作動しないということになりかねないからです。東日本大震災で被災したエリアで義務付けられていた非常用発電機のうち、約40%もの発電機が整備不行き届きで使用することができませんでした。
このようなことに陥らないように、以下のような項目で定期的に点検を行う必要があります。
- 検査計画表作成
- 検査責任者任命
- 外注利用の際の監督機能
- 検査予算の確保
災害対策に「過剰」と「常識」はない
非常用電源を含むBCP対策は、常軌を逸した自然災害など想定外に備えなかればなりません。ですから、対策内容も過剰だと思うくらい準備しておいても、不足するよりは良いと考えるのが妥当です。万が一準備したものが不足して企業として機能せず、信頼や利益はたまた会社ごと失うことを考えたら、予算の無駄だとは考えないでしょう。
ですからこの記事を参考に「うちの会社ではもっと準備が必要だ」という結論がでたのであれば、それに則した準備を整えていってください。また時間の流れに沿って、災害対策の論拠なども変わって行きます。常に見直しをしながら、しっかりとした準備を整えていくべきです。