緊急時に備えて「自家発電」の種類、メリットやデメリットを知っておこう。

電気はわたしたちの暮らしに欠かせないインフラです。東日本大地震以降、災害や緊急時への備えとして、自家発電が意識されるようになりました。当記事では、自家発電の体系的な事柄を中心に、自家発電の種類、メリットやデメリットなどについてご紹介します。

そもそも自家発電とは?

自家発電とは、電力の消費者(企業や家庭など)が自ら発電設備を用いて発電することを意味します。
自家発電の解釈は各所によって若干異なり、単純に自分のところで発電することを指す場合と、自分のところで発電した電気を売電せずに自家消費することを指す場合とがあります。

計画停電につながった東日本大震災や福島第一原子力発電所の事故、日本各地で毎年のように起こる自然災害など、近年、停電のリスクの高まりから、自家発電の重要性が見直されるようになりました。

病院など、人命を支える医療機関が停電に対して非常にシビアなことはもちろんですが、オフィスや工場などにおいても、外部からの電力供給が長期間止まってしまった場合、自家発電ができなければサービス提供や操業の停止が避けられないことから、経営リスクにつながります。

昨今、ICT化が進み、さまざまな業務がデジタル技術によって支えられていることを踏まえると、停電による企業リスクは年々大きくなっていると考えられます。

自家発電の用途

さて、ひとくちに自家発電と言っても、その用途は、大きく「常用」と「非常用」の2つに分けることができます。ぞれぞれの違いは次の通りです。

【常用自家発電】
さまざまな器機や設備に電気を供給するため、日常的に電気をつくります。電力会社からの電力供給の有無には関係しません。
常用自家発電設備は、電気の供給だけをおこなう「発電専用」、電気と廃熱を供給する「コージェネレーション(熱電供便)」、常用電源でありながら防災電源の役割も兼ねた「常用・防災兼用」の3つに分けることができます。
常用自家発電設備の種類

常用自家発電設備
∟発電専用
∟コージェネレーション(熱電供便)
∟常用・防災兼用


【非常用自家発電設備】
非常用自家発電は、何らかの理由によって電力会社からの電力供給が止まった場合にのみ稼働します。日常的には使用せず、緊急時の利用を目的としており、「防災用」と「保安用」があります。

■防災用
消防法や建築基準法によって設置が義務づけられている非常用自家発電設備です。停電した際、防災設備(※1)に電気を供給します。「防災用専用機」と「防災用・保安用共用機」に分けることができます。

「防災専用機」は、停電が起こったときに防災設備にのみ電力を供給します。
「防災用・保安用共用機」は、稼働条件によって防災設備以外の一般照明器機や医療機器、コンピュータなどにも電気を供給することができます。
※1・・・消防法で定めた「消防用設備(スプリンクラー、屋内消火栓、排煙機など)」と、建築基準法で定めた「建築設備(非常用の照明装置、排煙設備、非常用エレベーターなど)」をあわせた設備。

■保安用
停電時に(防災設備以外の)一般照明器機や医療機器、コンピュータなどに電気を供給することができます。法令による規定はなく、緊急時の電源として、設置者が自主的に設置したものになります。

非常用自家発電設備の種類
非常用自家発電設備
∟防災用
∟防災専用機
∟防災用・保安用共用機
∟保安用

なお、自家発電設備に関連する法律には、電気事業法、消防法、建築基準法、大気汚染防止法などがあります。設置する用途と設備の規模、また建物によってそれぞれ対象となる法令や規制が異なります。

自家発電のさまざまな発電方法

自家発電も、いろいろな方法で電気がつくられています。
内燃力発電、ガスタービン発電、汽力発電、水力発電、新エネルギーによる発電(太陽光発電、風力発電、地熱発電)が代表的です。内燃力発電はよく用いられる自家発電設備ですが、最近では、太陽光発電も増加しています(※参照)。

このほか、災害時の非常用電源として、小規模な電力をまかなう目的で持ち運びが可能な小型のインバータ発動機も以前から活用されてきましたが、最近では電気自動車を非常用電源に活用するなどの方法も見出されています。

自家発電の用途をはじめ、オフィスや工場の規模によって適する発電方法・設備・コストは異なります。また、常用と非常用では、自家発電設備の運転時間の目安も違うので、目的に応じた発電設備を検討する必要があります。

自家発電のメリットとデメリット

自家発電の必要性が議論されるなかで、自家発電のメリットとデメリットはどういった点にあるのでしょうか。

まず、自家発電のメリットとして挙げられるのは、電力会社からの電力供給が途絶えた災害時でも電力を使えることです(だだし、非常用で防災専用のものは防災設備にのみ電気を供給)。
次に、常用自家発電の場合、発電した電力を自社工場やオフィスで自家消費すれば、電力会社から供給される電力の使用量が抑制され、電気料金の削減にもつながります。
また、売電も視野に入れて自家発電設備を設置することも可能です。とは言え、必ずしも利益につながるわけではないので注意が必要です。

一方、デメリットはどのような点にあるのでしょうか。

デメリットとしては、コストの問題が挙げられます。
代表的なものが設置コストです。用途(常用か非常用)、発電方法、設備の規模などに応じてそのコストは大きく異なります。

加えて、故障した場合にもコストがかかります。
自然災害だけでなく、落雷などの悪天候によっても故障をする可能性があり、修理費用だけでなく故障時の対応なども考えておく必要があります。

また、メンテナンスや維持費も配慮しなくてはなりません。自家発電設備は保安規定に基づいて、点検が義務化されており、発電機の大きさで次第でメンテナンスにかかる費用が変わります。
昨今では、災害時に非常用自家発電が稼働しなかったケースも発生していることから、国土交通省は適切なメンテナンスおよび点検を実施するように呼びかけています。

企業にとってはBCP(事業継続計画)の上でも電力の確保は重要課題です。そのため、単純にメリット・デメリットという観点を超えて、事業存続の視点から自家発電設備の設置を検討する企業もあります。

企業の自家発電事情

東日本大地震後、鉄鋼業や製紙業、石油産業などをはじめとした大手企業では、自家発電設備の新設や増設の動きが加速しました。なかには、自前の発電所を有する企業もあります。

また、再生可能エネルギーの推奨とともに、固定価格買取制度やFIT制度の導入、電力の小売全面自由化などによって電力市場が自由化されはじめると、太陽光発電によって自家発電を導入する企業も増加しました。太陽光発電の売電価格が年々低下している現在では、自家消費に狙いを定めるケースが増えており、さまざまなメリットから電力の自己託送(遠隔地で自家発電した電気を、送配電網を通じて別の地域にあるオフィスや工場へ送電して自家消費すること)に注目が集まっています。

しかし、経済力のある企業では自家発電が進む一方、中小企業においては設置コストの壁が自家発電導入の妨げになっている現状もあります。
経済産業省は、こうしたことへの対応策として、大規模災害時に電力供給が途絶した際にも中小企業・小規模事業者らが事業を継続できる体制を確保するため、自家発電設備設置の補助金制度や税制控除措置などを実施しています。

企業の事業継続を左右する電力供給。自社の自家発電整備の状況を把握し、災害時の備えを検討するなどしておくと、有事においても何らかの対応ができます。
また、工場やオフィスではたくさんの電力を必要とする設備の利用が避けられない場合もありますが、緊急時への備えとして、できることから省エネも心がけておくことも良いでしょう。