電力不足はなぜ起こる?
「電力不足」とはなんでしょうか? 電力不足が原因で計画停電などの電力制限が行われたた例は2011年が最後であり、ほとんどの場合は生活に大きな影響はありません。では、そもそも、「電力不足」とは一体どのような状態を指しているのでしょうか。
火力発電所は常に稼働しているわけではなく、コストや燃料調達の問題などから休停止が行われることも多く、必要な供給力が確保できない見通しがあるからです。
電力不足とは
電力不足という言葉の定義が厳密に決まっているわけではありません。しかし、電力業界では安定供給上、予備率を3%確保しておく必要があるとしています。予備率が3%を下回ると電力の安定供給が続けられなくなるかもしれないのです。
この予備率とはどのような意味があるのでしょうか。また、なぜ3%以上の予備率が必要なのかについても確認していきましょう。
予備率とは
電気を安定供給する上で重要なのが、電力の需要と供給のバランスを揃える「同時同量」というルールです。同時同量とは、電気の作る量と電気を消費量とが同じときに同じ量になるということ。もしこのバランスが崩れてしまうと電気の周波数が崩れて、電気の供給を正常に行うことが難しくなります。
電気は貯蔵できないため、常に需要に合わせて供給を調整しますが、ある程度ゆとりを持たせておかないと突発的な事故や災害が起きてしまったとき需要と供給のバランスが保(たも)てなくなります。このゆとりの指標が予備率です。予備率が高いほど電力に余裕がありますが、予備率が低くなると電力不足が起こります。電気を安定的に供給するためにも、最低でも3%以上の予備率が求められます。
なぜ3%必要なの?
電力の需要は一定時間の平均値に対して3%程度の上振れ・下振れがあるので、最低でも3%程度必要です。さらに気象変動による需要や発電機のトラブル対応のため、8~10%の予備率が電力安定供給の目安といわれています(※1)。
しかし、毎年春秋の受給検証で用いる猛暑・厳冬を想定した予備率を見ると、7月の北海道・東北・沖縄以外のエリアはすべて3%になっています。また、2022年1~3月の東京エリアの見通しは-2.1~0.8%と非常に厳しい数字が出ています(※2)。
※1 出典:需要と供給のバランス|中部電力パワーグリッド
※2 出典:資料4 2022年度の需給見通しと対応策に向けた検討について|経済産業省
2021年に電力不足が起きている背景
今回の電力不足の大きな要因の1つとしてLNG不足が挙げられます。LNGとは、メタンを主成分とした天然ガスを-162℃に冷却した、液化天然ガス(正式名称:Liquefied Natural Gas)のことです。
火力発電所では石油、石炭、LNGを燃料としています。LNGは石炭や石油に比べると二酸化炭素発生量が少ないため、比較的クリーンなエネルギーです。日本では環境への配慮から、火力発電で使う全体燃料の約7割をLNGにしています。LNGは埋蔵量が多く、世界各地で安定的に産出されています。しかし、日本ではあまり産出できないためほとんどを輸入に頼っている状態です。
今回の電力不足の要因となるLNG不足の原因には、大きく4つの理由があるとされています。
1つ目は、最大の輸入先であるオーストラリアの生産施設でトラブルが発生したため、供給不足が起こってしまったことです。
2つ目は、新型コロナの影響で通過する船に対する安全手順が増えていることです。さまざまな船が通過するパナマ運河ではタンカーの渋滞が起こり、国内へ届くLNGの供給量が低下しています。
3つ目は、中国によるLNG買い上げです。新型コロナの影響で消費が低下してLNGの生産量が下がっていたところに、経済復興しつつある中国などが大量のLNGを買い上げたことからLNG価格が押し上がりました。
中国も国際的な世論の問題があり、燃料を石炭からLNGへシフトしている傾向があるため、以前よりLNGの需要が高まっているのです。電力会社はできるだけ安く発電するために燃料費の削減に努めていますが、LNGの供給量の低下、価格の上昇が原因でLNGの調達が非常に困難になっています。
4つ目は、火力発電所の休廃止です。2020年の夏には動いていた10基が老朽化などの影響で休廃止しており、設備損傷で停止しているものもあります。電力小売自由化で競争が激しくなるなか、採算性の低い発電所を維持できなくなることも問題です。
経済産業省では、今回の電力不足への対応として各電力会社へ火力発電所の修繕時期をずらし、火力の発電量を上積みすることで供給力を増やすように求めています。
しかし、それだけでは十分な対策とはいえないため、国民に節電に努めてもらうなどの理解を得る必要があるでしょう。
電力不足において私たちができる取り組み
電力不足を回避するためには、節電など私たち1人ひとりの取り組みが重要となります。また、電力不足で停電が起きる可能性なども考慮して十分に準備しておくことが大切です。電力不足に備えて、私たちが今からできることについて考えてみましょう。
節電を心がける
まずは普段の生活スタイルを見直すことで、意外と電気を使っていることに気づくことができます。
例えば、早寝早起きを心がけるだけでも、夜の消費電力を減らせるので節電につながります。
日頃の習慣を変えることも1つの手です。例えば、電気のスイッチをこまめに切る、洗濯物をまとめて洗うことで回数を減らすなどは誰でも簡単にできます。
またコンセントのプラグを常に差したままだと待機電力が発生します。実は、待機電力だけで、ご家庭で消費する年間電力の約5.1%を占めています(※1)。待機電力は使わない電化製品のプラグを抜くだけでカットできるので誰でもできる節電です。パソコンやゲーム機などは使うときだけプラグを差すなど、習慣づけたいですね。
電化製品の買い替えを検討されている方は省エネ家電に買い替えることをおすすめします。エアコン、電気冷蔵庫、電気冷凍庫、液晶テレビ、電気便座、蛍光灯器具(家庭用)を購入予定の方は特にチェックしたいところ。電化製品のカタログや製品に省エネ性能の向上を促すための目標基準の達成度具合が示されたラベルが表示されています。省エネ基準達成率が高いほど省エネ性が優れているので、節電できるだけではなく年間電気料金も安くなりますよ。
また電球が切れたときにはLED電球に交換するのもおすすめです。適用畳数や明るさが同じでも省エネ基準達成率が高ければ電気料金が安くなります。白熱電球に比べ、LEDランプは約86%の省エネ効果があります(※2)。
※1 出典:待機時消費電力について | 家庭の省エネ情報 | 電気のお役立ち情報 | 関東電気保安協会
※2 出典:スマートライフおすすめBOOK | 省エネ家電 de スマートライフ -温暖化の影響と防止- (一般財団法人 家電製品協会)
停電に備える
深刻な電力不足になると、電力の需要と供給のバランスが崩れ、大規模停電などに発展する恐れもあります。また大規模な停電を回避するために計画停電が行われる可能性もあります。
計画停電が行われるという可能性や大規模な停電が起こることを予測して日頃から十分な備えをすることが大切です。計画停電の前後や大規模停電後はカセットコンロのボンベ、乾電池、インスタント食品、ペットボトルの水などが大量に買い占められる可能性があります。
いざ必要なときに入手できないことが考えられるので、必要な分だけ日頃から備えておきましょう。日頃の備えは、台風や地震で停電してしまったときにも役に立ちます。
停電時は電気が使えないため、カセットコンロ、懐中電灯やランタン、乾電池式のラジオなどが役立ちます。性能が良いものをリサーチして備えておきましょう。
また冬の停電は暖房器具が使えないため、寒さとの戦いになります。電気がなくても使える暖房器具やカイロがあると安心です。石油ストーブの場合は石油を確保しておくことも忘れないようにしましょう。計画停電など事前に停電の日時がわかっているときはダウンジャケットなどの防寒着や寝袋などの防寒具も準備しておきたいですね。
最近ではアウトドアブームで停電時にも使える便利なアウトドア用品が増えています。太陽光で充電ができるコンパクトなLEDランタンやモバイルバッテリーはおすすめです。折りたたみ式のバケツやウォータージャグなども活躍します。
高層マンションなどは一度水をためて電動のポンプを使って各戸に水をくみ上げているところもあるので、停電になると水道が止まってしまうこともあります。十分な水の確保も心掛けましょう。