近年リスクが増大?!

近年、日本だけでなく世界でも冬の停電にともなう大規模な被害が報告されています。暑いイメージのあるテキサス州を厳しい寒波が襲うなど、異常気象が相次いでいます。

家庭でも電力以外で暖をとれる用意をしておくなどの対策が必要ですが、企業も停電時にしっかりと安全を確保できる備えが必要です。また、冬場の電気代の高騰や電力供給の不足も考慮しなければなりません。

自社にとって、冬の停電リスクとは何かを具体的に考え、必要な備えを整えるための知識を深めましょう。

1. 冬の停電リスクとは

近年、真冬と真夏において、電力供給の余力を示す予備率が全国各地で低下しています。電力供給の予備率が低い時に大型発電所のトラブルが起きると、大規模な停電に発展する恐れがあります。

冬にこのような停電リスクが高くなる主な原因は次の2つが考えられます。

世界的な燃料・電力不足

世界的な燃料・電力不足

LNG価格の推移

出典:資源エネルギー庁『2021年度冬季に向けた 供給力確保策について』p.6( 2021年9月)

※スポット価格:長期契約によらない、一回ごとに取り引きされる際の売買価格

日本の発電所の主力燃料は現在LNG(液化天然ガス)です。このLNGの価格が世界的に高騰しています。

冬の寒さが厳しいと、各国がLNGの調達を拡大するために品不足が発生します。2021年1月にはアジア各国が厳冬で、LNGが品不足になったために西日本地域で電力供給の予備率が非常に低い状態となりました。

脱炭素化の影響

脱炭素社会への移行が進む中、太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入が広がり、稼働を休廃止している化石燃料による古い火力発電所が多くあります。また、同じく脱炭素化で新たな火力発電所の建設は控えられています。

現在日本で導入されている再生可能エネルギーは太陽光発電が大きな割合を占めています。太陽光発電の稼働率が低くなる冬の期間は、天候によっては電力の供給が追いつかなくなってきました。

出典:産経新聞『冬の電力逼迫 安定電源の確保が急務だ』(2021年10月)

2. 大規模停電の例

アメリカ・テキサス州で起きた冬の大規模停電

2021年2月、アメリカは記録的な寒波に覆われました。南部テキサス州では複数の精油施設が閉鎖され、1日当たり数百万バレル規模の供給が停止しました。

テキサス州は約30もの精油施設が集中する場所です。この影響からアメリカ全土への原油を原料とする化石燃料の供給が大幅に低下しました。

この記録的な寒波の影響で増加した電力需要に供給が追いつかず、南部テキサス州などで大規模な計画停電が実施されました。テキサス州南東部ガルベストンでは、天然ガスなどの資源の供給が不足し、風力発

電のタービンが凍結したことも重なって、90%以上の世帯への電力の供給が停止しました。

出典:日本経済新聞『米寒波で大規模停電、テキサス州など400万世帯に影響』(2021年2月)

日本で起きた冬の停電

2021年1月、秋田県沿岸部を中心に暴風雪となり、秋田市をはじめとする広範囲で断線による停電が起こりました。強風による電線が断線した影響により停電したのは延べ約6万7千戸に及びました。

停電は1月7日夜から8日まで続き、その間の暖をとる方法に苦労したという声が多くありました。石油ストーブやカセットコンロは使用できましたが、エアコンやファンヒーターは停電の間は動きませんでした。

また、停電の間は携帯電話以外の連絡手段が使用できず、電話やパソコンは不通になりました。冬の停電は寒さの対策も必要となり、非常に厳しい経験となりました。

出典:朝日新聞『秋田市など広範囲で停電続く 大潟や三種では立ち往生も』(2021年1月)

3. 冬の電力需給ひっ迫と市場価格高騰

近年、冬の厳しい寒波の発生が増加しています。寒さが厳しくなると必然的に電力需要は増大しますが、資源の高騰、太陽光発電の稼働率低下など、複数の要因が重なり、電力の予備率は非常に低い状態が続いています。

2021年10月時点の見通しでは、全国7エリアで電力の予備率が3%台です。この予備率は過去10年間で最も厳しいものとなります。

2月の最大需要発生時の予備率見通しの推移

出典:資源エネルギー庁『2021年度冬季に向けた 電力需給対策について』p.7(2021年10月)

電力ひっ迫と市場価格高騰の原因

2020年度に電力がひっ迫し、市場価格が高騰した背景には、複数の要因があります。毎年10月に実施する冬季需要検証の時点では厳しい寒さの場合でも対応できる予備率の確保は確認されていました。

しかし、石炭火力発電所でトラブルが発生した影響で、制約をかけたLNG火力発電が行われました。それに伴い電力の※スポット市場で売り切れが常態化し、市場価格の高騰を招きました。

※スポット市場:長期契約などによらない電力取引で、翌日に発電・販売する電気を前日までに入札して売買する市場

12月と1月の電力需要概要

出典:経済産業省『2020 年度冬期の電力需給ひっ迫・市場価格高騰に係る検証』p.4(2021年4月)

気温の低下で電力需要増大

下のグラフは、2020年度冬の地域別平均気温の平年との差を表したものです。1月に注目すると、全国各地で平年より厳しい寒さであったことがわかります。

日本の地域平均気温の経過

出典:経済産業省『2020 年度冬期の電力需給ひっ迫・市場価格高騰に係る検証』p.5(2021年4月)

2020年度の冬は、12月中旬から1月上旬にかけて、北からの強い寒波が断続的に流入しました。この影響で沖縄を除く全国の平均気温は平年を約2℃下回る厳しい寒さとなりました。

この強い寒波の断続的な流入による影響で、電力需要はここ5年間でも高い水準となりました。この期間中、全国的に10年に1度の高いレベルを超える電力需要を記録した日(1月8日、1月12日)もありました。

下の2016年から2020年の日別電力量の推移のグラフからも、12月と1月に電力需要が非常に高くなる日があるのがわかります。この電力需要の増加は寒波による冷え込みと密接な関係があります。

日別電力量の推移

出典:経済産業省『2020 年度冬期の電力需給ひっ迫・市場価格高騰に係る検証』p.6(2021年4月)

4. 冬の停電への備え

これまで見てきた近年の冬の電力需給や暴風雪などの災害発生の状況から、冬は今後も停電リスクが高い年が続くと考えられます。電気を使わない暖房設備の準備なども当然必要ですが、企業としては更に多くの停電対策が必要です。

鯖江市の大雪の様子

出典:内閣府『市町村のための 降雪対応の手引き』p.23(2019年1月)

企業が確認しておくべき災害への備え

商工業においては、関係企業や商工会議所などへの非常の際の連絡手段を確保しましょう。災害時の被害状況などを市町村などに情報提供することも大切です。

また、企業にとって大切な資産であるデータの停電時の安全対策は必須です。近年の異常気象による災害発生の増加から、非常用電源を導入する企業が増えています。

出典:内閣府『市町村のための 降雪対応の手引き』p.24(2019年1月)

消費者トラブルへの備え

企業の事業内容によっては、消費者トラブルへの備えも大切になります。消費者への相談窓口を設置するなど、消費者からの相談を受け付ける体制を整えておく必要があります。

また、停電や災害によりトラブルの可能性が予測された場合、事前に注意喚起を発信しておきましょう。消費者庁ウェブサイトの情報などを確保しながら、関連情報を消費者にも提供します。

復旧への備え

停電時・災害時などの点検マニュアルを作成し、被害があった際に市町村から罹災証明書を速やかに受け取れる準備をしておきましょう。罹災証明書とは、自治体による被災証明書で、各種の支援を受けるために必要な場合があります。

出典:内閣府『市町村のための 降雪対応の手引き』p.25(2019年1月)

経済産業省の支援対策

経済産業省は2018年2月の大雪では、中小企業・小規模事業者への支援対策として以下の5つを行いました。今後の冬の停電などで被害が発生した場合、支援の対象になるかを確認し、復旧に役立てましょう。

  1. 特別相談窓口の設置
  2. 災害復旧貸付の実施
  3. ※セーフティネット保証4号の適用
  4. 既往債務の返済条件緩和等の対応
  5. 小規模企業共済災害時貸付の適用

※セーフティネット保証4号:災害が原因で売上高が減少している中小企業を支援するための措置

出典:内閣府『市町村のための 降雪対応の手引き』p.27(2019年1月)