企業防災, 災害に強くなるための取り組みポイント

日本における地震や台風等の災害発生率は世界の中でも高く、個人はもちろん企業やその取引先企業が受ける被害も小さくありません。
そのため、企業による災害への備えをすることは必要不可欠となってきており、さまざまな危機的事象 (インシデント) に備えようと、 事業継続計画 (BCP) の策定を進める企業も増えています。
今回は、特に自然災害に対して企業が行うべき取り組みについてご紹介します。

企業防災とは

企業防災とは、法的責任と社会的責任を有する企業が災害に際して取り組む対策を言います。
災害時に企業が最優先すべきは、従業員や顧客の身体と生命の安全を守ることです。
人道的に考えても当然ですが、労働契約法第5条で 「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、 身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」 と定められており、 従業員や顧客の身体と生命の安全を守ることは、法的にも“企業の義務”となっています。
そのため、もし経営層がこの安全配慮義務を怠った場合、従業員から損害賠償を請求される可能性もあります。
さらに企業防災は、企業の社会的責任の要素も含んでいます。
企業の製品やサービスの提供が滞ると取引企業や地域経済へも大きな影響を与え、 社会全体の生産活動や流通の停止につながることが懸念されています。
これらの活動が途絶えると、サプライチェーン全体が止まり、国内はもちろん世界的にも影響をおよぼしかねません。
そのため、企業は災害時の活動維持と早期復旧によって、顧客や社会への供給責任を果たすことが求められているのです。

こうした企業防災の必要性、重要性の認識が日本で広まり始めたのは、2001年にアメリカで発生した同時多発テロがきっかけでした。
さらに、2011年の東日本大震災で多くの企業で被害が発生し、サプライチェーンを介して生産支障の影響が国内外におよんだことから、 BCPの必要性がさらに強く意識されるようになりました。
今では、東京都が制定した 「東京都帰宅困難者対策条例」 のように、各自治体でも企業防災・BCPを求める動きが広がっています。

企業防災の取り組みポイント

企業防災では、 「身体・生命の安全確保」 「事業の継続」 「二次災害の防止」 「地域貢献・地域との共生」 の 4つの要素を検討する必要があります。
しかし、その内容と優先順位は、企業の業種や業態、立地条件等によって異なるものです。
ここでは、企業防災の取り組みを時間軸でとらえ、 災害が生じた直後に欠かせない 「初動対応」 の視点と、 被災後の 「事業継続」 の視点から考えてみましょう。

「初動対応」 視点での取り組み

初動対応は、地震や台風、大雨等の災害が起きた際、被害を最小化するために欠かせない取り組みです。
被災直後の刻一刻と状況が変化する中では、従業員や顧客の身体と生命を守ること、二次災害を出さないよう努めることが求められます。
そこで重要な役割を果たすのが、初動対応です。
初動対応では、被害が大きくなりそうな災害が発生した際、どのように行動するかを事前に取り決め、 従業員に周知しておくことが大切です。事前に取り決めておく内容には、主に以下のような項目があります。

  • 避難経路や一時避難先
  • 安全な避難方法
  • 災害別・状況ごとの行動計画
  • 安否確認の方法
  • 社内防災訓練の定期開催  等

この他にも、帰宅困難なケースを想定して、 社内で寝泊まりできるように食料品や医薬品等の生活に必要な物資を一定量備蓄しておくことも大切です。
自社ビルを所有する場合は、建物の耐震補強対策も必要でしょう。
火や薬液を使う事業であれば、出火や薬液もれ等の二次災害への対策も必要です。
また、拠点を置く地域の自治体と地域防災協定等を結び、防災訓練の共同実施等を通じて日頃から関係性を構築しておくことも、 二次災害を最小限に食い止める対策として有効です。

「事業継続」 視点での取り組み

事業継続に必要なことは、被災後の企業活動の維持、および事業の早期復旧です。
被災後の事業停止期間が長く続くと、他社への顧客流出やマーケットシェアの低下が広がるだけでなく、 取引先や顧客への影響も大きくなります。
株式会社 東京商工リサーチの調査結果 (2020年2月29日時点) によると、 2011年3月に発生した東日本大震災の関連倒産1,946件 (累計) のうち、 取引先や仕入先の被災による販路縮小などが影響した 「間接型」 が約88%を占めており、取引先や顧客への影響の大きさが分かります。
そのため、最近では企業間取引の際、BCP策定を要求する声が高まっています。
影響の拡大を防ぎ早期復旧を図るには、 被災後 「どのくらいの時間で」 「何を復旧させるか」 「そのための備えは何か」 といった事項を 整理することが重要です。

例えば、被災後も事業を滞りなく継続するためには、被災時の指揮命令系統や重要業務の明確化は欠かせないでしょう。
本社が損壊した際は、どこを臨時拠点にするのか、本社と事業拠点の相互支援をどのように行うか等、 備えておく項目は緻密に計画しておく必要があります。
他にも、業務遂行に必須な重要データのバックアップ等が備えておくべき項目として挙げられます。

被災後のリソースが損なわれている中で、すべてを同時に復旧させることは難しいものです。
従業員や顧客の身体と生命を守ることを最優先にしたうえで、経営全体の観点から重要業務を選択し、 復旧する事業所や設備について優先順位をつけていくことが重要です。
その際、自社の事業停止による影響を予想し、サプライチェーンへの影響を最小限に抑えることに着目すると、 復旧を急がねばならない業務が明確になるでしょう。
こうした事業継続計画 (BCP) を、従来の防災対策にプラスしておけば大きな備えになります。

まとめ

企業の事業活動には、従業員や顧客、取引先、地域等、多くの人が関わっています。
自然災害はいつ起こるか予測が難しいため、こうした人たちを守る意味でも、事業継続計画 (BCP) を策定し、 定期的に内容を見直すことが重要です。
「身体・生命の安全確保」 「事業の継続」 「二次災害の防止」 「地域貢献・地域との共生」 等、 多くの責任を抱えているため、企業防災で取り組む範囲は多岐にわたります。
このような準備を自社だけで取り組もうとすると、過不足や抜け漏れが生じるおそれもあります。
そんな時は、企業防災の専門家からアドバイスやサポートを受けると良いでしょう。