停電のあとに注意したい通電火災
企業防災において、防災計画を作成する主な目的は「身体・生命の安全確保」と「物理的被害の軽減」です。その目的は事業継続計画(BCP)の主な目的の大前提となっています。
過去に発生した大規模地震による火災の過半数は電気が原因という事実をご存じですか?
地震が引き起こす電気火災とは、地震の揺れに伴う電気機器からの出火や、停電からの復旧後の再通電時に出火する、いわゆる「通電火災」の事です。
近年発生した令和元年房総半島台風(令和元年台風第15号)による長時間の停電復旧後に、通電火災と疑われる火災が発生したように、地震発生時だけでなく、台風などの自然災害発生時においても注意が必要です。
今回は二次災害防止のためにも、停電の後に注意したい「通電火災」について紹介します。
通電火災とは?
通電火災は地震や台風、大雨、洪水、高潮などにより、「停電が発生する」+「配線や機器になんらかのダメージや異常が起こる」ことにより、電力復旧のタイミングで発生する火災です。
<一例>
- 損傷した配線などに再通電し、発熱、発火する。
- 転倒した電化製品に可燃物が、接触した状態で再通電し着火する。
- 再通電時に発生した電気的火花が、漏れ出たガスに引火、爆発する。
- 浸水や雨漏りによる、電化製品の基盤等の損傷により、再通電時にショートが生じ着火する。
- コンセントに水分が付着し、再通電時にトラッキングが生じ発火する。
避難中の不在時や、初期消火に失敗し火災に至るケースがあります。
通電火災を防ぐポイント
通電火災を防ぐためには、停電時の対応と電力復旧時の対応がポイントになります。
停電時の対応
- 停電中は電気機器のスイッチを切るとともに、電源プラグをコンセントから抜く。
- 停電中に職場や自宅から避難や離れる際はブレーカーを落とす。
- 停電がしばらく続く見込みの場合はブレーカーを落とす。
- 就寝時は念のためにブレーカーを落とす。
電力復旧時の対応
- 事前にガス漏れ等がないか確認する。
- ブレーカーを戻す前に電化製品をコンセントから外す。
- 浸水などにより電化製品が破損していないか、燃えやすいものが近くにないかなど、十分に安全を確認する。
- ブレーカーを戻す際は必ず人が立ち会い、戻したあと異常(発熱、臭い、異音等)があればすぐにブレーカーを落とす。(電気工事会社に点検・修理を依頼する)
- ブレーカーを戻したあと電化製品を接続する際は一度に接続せず、電化製品ごとに接続し安全を確認する。(異常があれば電化製品をすぐに外す)
- 建物や電化製品等には外見上の損傷がなくとも、壁内の配線の損傷や電化製品内部の故障により、再通電後、長時間経過したのち火災に至ることがあるため、煙の発生など異常を発見した際は直ちにブレーカーを落とし、消防機関に連絡する。
雨漏りや浸水などで水に濡れた電化製品も使用しない事が重要です。ここまでは職場や家庭の建物内での火災発生を想定しておりますが、通電火災は建物外での発生もありえます。屋外で垂れ下がった電線や切れた電線は「感電の恐れがあるため近づかないで」と呼びかけられています。電線から火花が散る、周囲の金属や可燃物に接触する、などにより火災が発生するおそれもあります。危険な電線を発見した際は速やかに電力会社に連絡してください。これらの火災や感電は建物内のブレーカーを落とす事では防ぐことができません。
事前にできる対策
事前にできる対策として、地震に限定すると「感震ブレーカー」が効果的です。
感震ブレーカーとは?
「感震ブレーカー」は地震発生時に、設定値以上の揺れを感知したときに、ブレーカーやコンセントなどの電気を自動的にとめる器具です。職場や家庭で有効なだけでなく、倉庫や作業場など無人の時間帯が想定される施設などにもお勧めします。既設のブレーカーに後付けで設置できるタイプやコンセントタイプなど、製品ごとの特徴や注意点を踏まえ適切なものを選ぶことが必要です。
感震ブレーカーの設置に関わらず、生命の維持に直結するような医療用機器を設置している場合、停電に対処できるバッテリー等を備える停電対策をはじめ、耐震対策、家具の落下や転倒防止などの対策を加えると効果的です。
通電火災は「停電後に起こりうる火災」として認識し、職場や家庭で停電時の対応と電力復旧時の対応の両面を準備しておくことをおすすめします。
<参考資料>
- 企業防災とは何ですか?(内閣府)http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/kbn/index.html
- 介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン(厚生労働省老健局)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000704787.pdf
- 消防の働き’20年1月号 通電火災に対策について(総務省消防庁)https://www.fdma.go.jp/publication/ugoki/items/rei_0201_48.pdf
- 平成30年3月 大規模地震時の電気火災抑制策の方向性について(内閣府)http://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/denkikasaitaisaku/pdf/kasaitaisaku.pdf
- 感震ブレーカー等の普及啓発用チラシ(内閣府)http://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/denkikasaitaisaku/pdf/denkikasaitirashi_201904.pdf
- あらためて学ぶ、「停電」の時にすべきこと・すべきでないこと(経済産業省資源エネルギー庁)https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/teiden_info.html