介護施設のBCP防災マニュアル【火事編】
介護施設で発生した火事(火災)が発生した際に、怖いことはなんでしょう?色々怖いことはありますが、夜間職員が少なくなった時に起こる火事は特に怖いのではないでしょうか。
実際に介護施設で多くの死傷者を出した事例としては、夜間の火事が多い傾向にあります。原因としては、夜間少数の職員での避難誘導がうまくできなかった点が挙げられています。入居者の中には、自力で動くことができない方や認知症により危機状態にあることをすぐに把握できない方がおり、そのまま取り残されて被害にあってしまったのです。
では施設として、そのような悲劇を繰り返さないためにどうしたらいいのでしょう。ここでは、そんな介護施設の火事・火災に対する心構えや対応マニュアル、対策に活躍する設備についてまで考えてご紹介します。
介護施設の火事検証
まず火事に対して対策を練るために、過去の火事や資料から介護施設の火事状況を確認してみます。今までの火事を知ることで、対策する点を浮き彫りにしてみましょう。
大きな被害をもたらした火事は夜間に起こる
最初に確認するのは大きな被害をもたらした介護施設の火事事例です。火災事故はいつ、どのように起こったのでしょうか
火事事例①
グループホーム「やすらぎの里」
建築面積:304.2㎡
建物構造:RC造一部木造平屋建て
消防用設備等:消火器、誘導灯
火災時の在館人員:入居者9名 施設職員1名
覚知時刻:平成18年1月8日2時32分
死傷者等:死者7人 負傷者3人
【火事の状況】
出火原因:共用室居間ソファ付近でライターによる着火の可能性が高いと推察される。
発見状況:施設職員が燃えている音に気付き、消火器で消火を試みたがもう消せない段階になっており断念。すぐに施設外へ走りトラックを止め携帯から通報した。
避難・救出状況:避難誘導は、特に行われていない。職員及び駆けつけた警察官が、計4人を救出したが後に一人死亡。
火事事例②
グループホームみらいとんでん
延べ面積:248.43㎡
建物構造:木造
消防用設備等:消火器、誘導灯
覚知時刻:平成22年3月13日2時25分
死傷者等:死者7人 負傷者2人
【火事の状況】
出火原因:1階食堂の石油ストーブに、綿製品が接触し着火
発見状況:施設職員の夜間勤務中ストーブから炎が上がっているのを発見し、消火器で初期消火を試みたが断念。施設職員が屋外へ避難した後、所持していた携帯で通報。
避難・救出状況:消防隊が4名助け出したが生存者は1名で他はいずれも現場において医師により死亡判定されている。
出展:【総務省消防庁】認知症高齢者グループホームにおける過去の火事について
上記二つの事例はどちらも夜間に起こった火事で、さらに夜勤中という職員が少ない状況でした。職員は自分の身を守ることと通報に時間を取られ、入居者の救出に時間を要しています。ではどうすれば被害を抑えることができたのか、新しくできた法改正による火事対策とともに見ていきましょう。
介護施設を守るBCPの推進【火事前の対応】
悲劇を繰り返さないために制定された法改正
過去に起きた火事を考慮し、介護施設の火事対策の基準が変わっていきました。主に変わった部分は防火管理者の選任義務と消防用設備の設置義務です。これはどういったものか、詳しく見てみましょう。
防火管理者の選任義務
防火管理者とは
防火管理者は防火管理業務を行なうため管理権原者から選任された人を指し、一定の資格が必要です。防火管理者は管理権原者に指示を求めたり、従業員などに指示を与える必要もありますので、管理的・監督的地位にある人を選任します。(管理権原者が防火管理者になることもできます。)管理権原者は防火管理者に消防計画を作成させ、次のような防火管理に必要な業務を行わなければなりません。
防火管理者の業務
- 消防計画の作成と届出
- 消火、通報及び避難の訓練の実地
- 消防用設備等の点検及び整備
- 火気の使用又は取扱いに関する監督
- 避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理
- 収容人員の管理
- その他防火管理必要な業務
防火管理者の資格
- 下記の機関が実施する防火管理者資格講習を修了した者
・都道府県知事 ・消防長 ・総務大臣の登録を受けた法人 - 防火管理者として必要な学識経験を有する者
消防用設備の設置義務
すべての施設
- 自動火災報知設備
- 火災通報装置(消防機関へ通報する火災報知設備)
- 消火器
延べ面積275㎡以上の施設
- スプリンクラー設備
※延べ面積が1,000㎡未満の施設では水道を利用した「特定施設水道連結型スプリンクラー設備」を設置することができます。
消防用設備等の検査
上記の消防用設備等の設置が義務となった施設については、面積を問わず、消防設備士による施工及び消防用設備等の設置をする際の消防機関の検査が必要です。
火気管理と出火防止対策
このように介護施設では、消防用設備や防火管理者の改善が義務付けられました。それは先程紹介したような火事で大きな被害がでたことにより、建物の見直しと火事に対してしっかり知識を要した人を常駐させることの重要さに気付かされたからです。しかし火事を起こさないためには、職員や入居者の意識改善による出火防止も重要です。ここではそんな出火防止のための対策をご紹介します。※2
- 火を使用する設備の近くに燃えやすいものを置かない
※ストーブ等は、寝室と距離を取って使用する。ストーブ周辺に燃えやすいものを置かないように心がけましょう - 消火器、室内消火栓、三角バケツ、自動火災報知機、放送設備等の使用方法や設置場所などを確認しておく
- 二つ以上の別な方向への避難経路を決めておく
- 廊下や出入口、階段などには避難の妨げになるようなものを置かない
- 日頃から喫煙は所定の位置で行うようにする
※入居者のライター等は職員が適切に管理しましょう - カーペット及びカーテンは防火物品を使用し、寝具等は防火製品を使用する
- 重度の方は、1階の避難させやすい部屋に入所せせるなど配慮する。
- 消防署が、通報から現場に到着するまで、おおよそ何分くらいかかるか確認しておく
※消防隊の到着時間は、施設の立地や当日の道路状況等によっても左右されるので、目安と考えましょう - 厨房等火を使用する場所の点検当番を決め、毎日、定期的に点検を実地する。
- 夜勤中の避難役割と行動手順を綿密に決め、火災時に行動できるよう定期的に訓練する。
とても当たり前のことだと思われるかもしれません。しかし一番大事になるのは、このような日頃の防火に対する心がけと実際に火事が起こった時の想定です。特に避難経路の確認と避難訓練は定期的に行う必要があります。日頃の活動の中で、避難経路に荷物が置かれてしまう場合もあり、いざという時の避難を困難にしてしまうこともあるからです。火事はパニックになると通常の動きができず初動が遅れてしまいます。だからこそ日頃避難訓練をおこない火事が起こっても慌てずに対処できるようにしましょう。
介護施設を守るBCPの推進【火事後の対応】
実際に火事が起こってしまったらどうすればいいのか、冷静に対処するための行動手順とマニュアル的なチェックリストをご紹介します。
火事後の行動手順表
介護施設で火災が起こったら?マニュアル!~火災対応簡易チェックリスト~
- [平静な対応]
- ☑ 伝言ダイヤル・携帯メールなどによる外部との連絡・連携・応援要請
- ☑ 二次災害の恐れがある場合には、予防策を実施(ブレーカーの切断など)
- [安否確認]
- ☑ 入居者等の安否及び負傷程度の施設長(総括責任者)への報告(救護準備)
- [消火活動]
- ☑ 火災発生時の消火作業、消防署への連絡・避難指示(エレベーターの使用中止を指示)
- [救護活動]
- ☑ 負傷者の有無確認、応急手当の実施、安全な場所へ誘導
- ☑ 負傷者を付近の病院等へ移送
- [情報の収集等]
- ☑ 施設被害の全体像の把握
- ☑ 入居者等の動揺を静め、冷静な対応を指示し、従業者などから情報収集
- ☑ 職員や職員家族の安否を確認
- ☑ 招集・参集基準に基づく職員への連絡
- [避難誘導]
- ☑ 火事状況の情報をもとに、総括責任者等において入居者等の避難の要否判断
- ☑ 利用者等への避難誘導連絡と避難誘導班への避難手順指示(色区分等を利用)
- ☑ 担架・車いす・スリッパ・ヘルメット・ロープ・プラカード・ゼッケン等必要品の準備
- ☑ 入居者等の健康ケア、PTSD対策、体調不良者の協力施設等への入所依頼
- [避難が不要な場合]
- ☑ 備蓄食料、利用可能な設備や器具を利用して入居者等の安全確保を実施
- ☑ 負傷の状況に応じた救急措置と病院への移送
- [夜間における対応]
- ☑ 夜勤者は、入居者等の安否確認と負傷者の救護(応急措置)を実施
- ☑ 施設の被災状況等を判断し、安全なスペースへ移動が必要な場合の応急措置
- ☑ 他職員は、招集・参集基準に基づき、対応をする。
- [施設が使用不能となった場合]
- ☑ 入居者等を家族等へ引継依頼
- ☑ 他の施設等へ受入依頼
- ☑ スタッフの疲労蓄積による怪我、病気等の二次災害に注意
- ☑ 避難者の体調の異常の確認、心的外傷後ストレス障害対策を実施