介護施設のBCP・防災マニュアル【地震編】
マグニチュード5以上の地震が頻回に発生し、地震大国と呼ばれる日本。皆様の記憶に新しいであろうここ数年の間にも、熊本や北海道で最大震度7の地震が観測され、被害をもたらしました。日本に住んでいる限り、地震はいつ来てもおかしくない身近な脅威だと言えます。
では、もし地震が起きたら介護施設はどうすればいいのでしょうか。ここでは介護施設のための、BCPを考えた地震対策についてまとめていきたいと思います。
地震が起きる確率が高い地域
日本には、「30年以内に来る」と言われている地震がいくつかあります。それは甚大な被害をもたらすとされ、国も「日頃からの備えましょう」と呼びかけています。まず最初に、この「30年以内に起こるであろうとされている地震」についてご説明いたします。下記図をご覧ください。
図の中でも特に懸念されている地震が、”南海トラフ地震”と”首都直下地震”です。特に南海トラフ地震は範囲が広く、東海エリアから近畿~四国辺りまで被害が及ぶと想定されています。
「自分の地域は懸念エリアから外れているから大丈夫だ!」と思った方はいませんか?実は、懸念エリアから外れていても安心はできません。例えば2016年に起こった熊本地震、あれは30年以内に発生する確率が1%未満※1と低い確率の地震だったのです。実は日本には、地震が発生するであろう活断層が約2000もあります。これにより、いつ大きな地震が襲ってくるかを予見するのはどこであれ難しいと言えるでしょう。
そんな日本での介護施設の運営には、地震が起こる前の備えが必要です。次の項目では、介護施設の地震対策について具体的に見ていきましょう。
追記:2017/12/20
”日本海溝・千鳥海溝周辺海溝型地震”として根室沖で30年以内に地震発生率が60%と上記調査結果がありましたが、政府の地震調査委員会が2017年12月19日、30年以内に最大40%の確率でM8.8以上の”超巨大地震”が来ると発表がありました。(東日本大震災はM9.0クラス)これにより懸念されるのが地震だけでなく津波による被害です。該当する地域の方はより警戒を強めて地震に備えてください。
【地震発生時】介護施設の地震対策について
地震を早く知ることが鍵!
まず地震への備えとして重要なのは、地震発生をいち早く把握することです。これには、緊急地震速報が必要です。緊急地震速報とは、地震が発生した直後に各地の揺れの予想をして、可能な限り迅速にユーザーに知らせる情報です。スマートフォンやテレビ、ラジオなどで、この速報を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
緊急地震速報に気づかない?迅速な伝達が必要!
とは言え、介護職員は仕事中にスマートフォンを持ち歩いたりテレビを見たり…といったことはできないでしょう。入居者も耳が遠かったりテレビの近くにいなかったりして、速報に気がつかない方がいるかもしれません。
このようにせっかく情報が入手できる状況にあっても、気がつかなければ意味がありません。避難の初動が遅くなってしまいます。つまり介護施設では、「いかにして緊急地震速報を素早く周知させるか?」が重要な課題となってきます。
【地震発生前】介護施設を守るBCPとして「備蓄」が最重要
これまで、地震の脅威と緊急地震速報を素早く伝達するシステムについてご紹介しました。ここでは更に、地震が発生する前に事前に確認しておくべき対策をご紹介します。これらを準備するかしないかで、被災後の状況が変わってきます。介護施設の地震防災マニュアルを下記で紹介しておりますので、ぜひ確認してみて下さい。
大丈夫?介護施設の耐震性と設備・備品の安全対策
耐震診断の実施 | 昭和56年6月1日に施行された新耐震基準に準拠していない建物については耐震診断を実施し、必要であれば耐震補強を行う |
建物の状態の定期点検 | 新耐震基準に準拠した建物についても、耐震性能の低下をもたらす経年劣化等がないか、定期的に点検 |
天井の落下防止 | 単に吊り下げる形状の天井が落下する事例が、大規模な地震が発生するたびに繰り返されている。耐震診断の対象には含まれていないが、天井の安全性も確認する |
天井からの落下物対策、ガラス飛散対策 | 天井からつり下げている形式のものは、鎖などで補強。割れても飛散しないよう、ガラス飛散防止フィルム等で補強 |
備品等の転倒・移動、落下対策 | 書棚、タンス、ロッカー、机などは転倒したり、移動したりしないように床、壁に金具、針金などでしっかりと固定。書棚・戸棚は棚板の縁を高くするなど落下防止を行う。開戸は、振動により開いて収納物が落下しないように、扉の開放防止対策を行う |
安全スペースの確保 | 建物内の一室を安全スペースとして確保。什器等を一切置かず、利用者が集まれるようにしておく。手すりが設置されている広い廊下も安全スペースとしては有効 |
情報通信機器の管理 | 津波の被害が想定される建物では、情報源となるテレビ・ラジオの他、電話、FAX、パソコンなど通信機器を上階に設置 |
非常用発電機の設置 | 止められない医療機器等がある階には、非常用発電機を設置 |
スプリンクラーの使用方法の徹底 | 災害時にスプリンクラーを正確に取扱えるよう、事前に使用方法を周知しておく |
避難経路の選定 | 津波が想定される地域では、短時間での避難を目指すと同時に、地形や標高、経路上の橋梁等の耐震性、道路の広さや勾配なども考慮して避難経路の安全性を点検 |
塀等の倒壊防止対策 | 屋外へ避難する必要がある場合には、避難路に面したコンクリートブロックの安全性を確認し、専門家と相談し必要に応じて補強 |
※2 高知県社会福祉施設防災対策指針より
いざという時のために、必需品の備蓄を
地震が起こった時、まず自分たちで数日間は過ごせるように備蓄をしておく必要があります。また備蓄を保存するのはできる限り早く持ち出せる場所が最適なため、玄関先がオススメです。特に食糧品や救急用医薬品など、すぐに必要になる可能性が高い物を優先的に置いておくのがいいでしょう。倒壊する可能性の低い倉庫などがあれば、そちらに置いておくのもいいでしょう。また普段利用者の送迎に使用している車・バスなどの車内にも、多少備蓄を保管しておくこともオススメします。
備蓄用食糧品
最初の数日は火が使えない状態もありえるので、火を使わずとも食べられるものを用意しましょう。流動食しか食べられない高齢者のため、水煮などの柔らかい缶詰やレトルトを用意することも大事です。
救急用医薬品
利用者常備薬
移送
情報通信機器
照明
備品
災害用設備
救助用機材
※2 高知県社会福祉施設防災対策指針より
災害への心持ちは?平常時の簡易チェックリスト
- ☑ 地盤、地形などの立地条件の確認と起こりうる災害予測
- ☑ 電話が通じない場合の通信手段(衛星電話など)の確保
- ☑ 災害時の飲料水等の確保、また確保する方法があるか
- ☑ 水洗便所の使用が出来なくなった場合の対応が検討されているか
- ☑ 灯油等の燃料の確保、また確保する方法はあるか
- ☑ 自家発電装置等の緊急時の電力の確保
- ☑ 夜間に被災し、かつ、停電となった場合の照明は確保されているか
- ☑ ガスの供給元栓の場所の把握
- ☑ 薬品、可燃性危険物は火気がなく落下の危険のない場所に保管されているか
- ☑ プロパンガスボンベは、転倒しないように固定する
- ☑ 地下や屋外に設置している水(油)タンク等の点検
- ☑ 入居者等と職員を含め3日分以上の食料の備蓄
- ☑ 火や水が無くても食べられるものや、消化しやすい食糧の準備
- ☑ 備蓄物資は、2階以上で保管されているか
- ☑ 職員間で連絡が取れるよう、緊急連絡網を作成
- ☑ 電話等通常の連絡手段が使えない場合の緊急時の連絡方法を検討
- ☑ 救護が必要な入居者等をまとめた一覧を作成
- ☑ 作成した一覧は、同時に被災しないと考えられる数箇所に保管
- ☑ 避難経路を複数設定
- ☑ 送迎中に被災した場合の避難場所等や避難経路を検討
- ☑ 避難場所や避難経路をまとめたマップを作成
- ☑ 家族等と避難場所等及び引き渡し場所について情報共有
- ☑ 入居者等が自分自身で身を守る手段を学ぶ訓練を実施
- ☑ 地域の行事へ積極的に参加し、防災に関する情報交換等をする
※3 防災ガイドBOOKより
【地震発生後】介護施設を守るBCPとして「行動」が重要
これまで地震について、地震発生時、地震発生前…とお話してきましたが、最後に地震発生後に大切なBCPについてご説明したいと思います。地震発生後に重要なのは「どう行動するか」ということです。
地震発生後の行動手順
地震が起きたら?地震対応簡易チェックリスト
- ☑ 火元の点検とガス元栓の閉鎖(電気器具やライターの使用中止指示を含む)
- ☑ 出火を見つけたら、火災報知器を押し、直ちに可能な範囲で消火活動
- ☑ 火災発生時の消火作業、消防署への連絡、避難指示(エレベータの使用中止をを指示)
- ☑ 戸が再び閉まらないように近くのものを挟み込む
- ☑ ガラスの破片や棚の転倒状況を確認して、安全な避難経路を確保
- ☑ 建物の崩落等の危険を発見したら、周囲に知らせる
- ☑ 負傷者の有無を確認
- ☑ 負傷者の応急手当を実施
- ☑ 医療機器を利用している入居者等のために電源確保
- ☑ 負傷者を附近の病院等へ移送
- ☑ 施設被害の全体像の把握と周辺の被災情報の収集
- ☑ 家族等への連絡は、施設が一括して連絡
- ☑ 漏電、ボイラーの破損など二次災害発生の原因になるものをすぐに点検し、電力会社や電気工事業者の判断を得る
- ☑ 給水、供電などのライフラインや給食等設備に支障がないか点検
- ☑ ガラスの破損、備品の転倒、タンクの水・油漏れ等を点検し、必要な清掃を行う
- ☑ 避難の実施が困難な場合は、地域住民や企業、学校等に応援要請をする
- ☑ 避難誘導を開始する前に点呼し、総括責任者に報告
- ☑ 入居者等への避難誘導連絡と安全指導班への避難手順の指示
- ☑ 施設を離れる際には、ブレーカーを落とす
- ☑ 避難後、家族等に現状を報告
- ☑ 避難後に安全が確認されたのち、あらかじめ定められた場所と方法で入居者等の引き渡しを行う
- ☑ 入居者等の家族等も同時に被災し、預かりが困難な場合は、他の社会福祉施設等で受け入れてもらえるよう手配
※3 防災ガイドBOOKより
まとめ
地震などの災害が発生しても、介護施設の運営を守る
地震で一番大切なのはまず自分の命を守ること、次に身の回りにいる方を助けることです。しかし命を守れても、その後施設の機能が停止してしまえば、そこに入居している人々が困ってしまいます。介護施設としてできる限り早く運営の再会ができることが、そのまま地域の助けにも繋がります。そのためにも日頃の備えと避難訓練、そして設備の整備をしっかりとおこないましょう。
最後に、各都道府県別の非常災害対策計画・マニュアルが掲載してあるサイトを紹介します。介護施設用に書かれたものがある場合は”介護施設用資料”、全ての団体、施設に向けて作成されたものには”全施設用資料”とリンクに記載しました。ご自身の地域の資料に一度、目を通しておくといいかもしれません。