ビルオーナー様なら知っておきたい「消防法」とは


ビルオーナー様は所有するビルに対する全体的な責任を負うものという認識は持っていても、各テナントにおける防火管理にまでは関知しないというイメージが持たれていることも少なくないようです。しかし実際には、消防法が定めているのは、共用部についてはビルオーナー様が、専有部については入居テナントが責任を負うといった形ではなく、双方が共同しての防火管理のあり方です。本記事では、消防法の定める防火管理義務について、ビルオーナー様の目線で解説します。

消防法は、万一の場合の被害を抑えるための防火管理を定める法律

消防法は、火事や地震が起こった際の被害を最小限とし、人命を守るために定められている法律です。具体的には、消防計画の作成、避難訓練の実施、消防設備の整備・点検といったことのほか、危険物の取り扱いや内装制限などに関する基準を定めています。複数のテナントが入居し、多くの人を収容するビルを含め、ほぼあらゆる建築物・工作物に消防法が適用されます。
なお、消防法に定められているのはあくまで最低限必要とされる内容に過ぎないため、ビル住所を管轄する消防署に相談したり確認したりしながら対応を進めていくのが安心です。防火・防災を考慮した定めは建築基準法にもありますが、こちらは定められている基準をクリアすれば問題ないという点で消防法とは異なっています。

ビルオーナー様も防火管理の責務を負う

いわば現場を管理する立場であるテナントだけでなく、所有者であるビルオーナー様も管理権原者(消防法上の管理について権原を有し、適切に管理すべき者)に当たります。契約上貸主が実質的に管理できない専有部分に関しては、管理権原者は入居しているテナントであり、防火管理を行うべきとされるのも各テナントであるとされます。
しかし、だからといってビルオーナー様が防火管理の責務を免れるわけではありません。事実、たとえば定期点検結果の報告を怠った場合に罰せられるのは、他ならぬビルオーナー様なのです。

防火管理者の選任が必要となるケース

防火管理者は、防火管理業務を遂行するに当たっての責任者であり、消防法により次に挙げるような建物においてその選任が義務づけられています。
・ 建物全体の収容人数が30人以上の特定防火対象物(商業施設や宿泊施設など不特定多数が出入りする建物)
・ 建物全体の収容人数が50人以上の非特定防火対象物(オフィスビルや工場など)
・ 自力での避難が難しい人たちが入所する福祉施設で、収容人数10人以上のもの
防火管理者は、防火防災に必要な業務を行ないます。管理的または監督的な地位にあり、かつ、消防機関か指定講習機関が実施する防火管理講習を受けて資格を得ていることが要件です。
なお、ビルを代表して1名選任すればよいわけではなく、すべてのテナントにおいて選任が求められる点に注意が必要です。
また、防火管理者には甲種防火管理者と乙種防火管理者とがあり、建物用途、延べ面積、収容人数によってどちらを置くことが必要になるかが変わってきますので、確認しましょう。

統括防火管理者が必要となるケース

さまざまなテナントが入居していることから管理権限が複雑になっているビルでは、防災意識や協力意識がどうしても希薄となりがちです。そうしたケースでは、統括防火管理者を置いた上で、ビルオーナー様と各テナントが連絡して共同で防火管理を行うよう定められています。(共同防火管理)
統括防火管理者が指揮を執っての共同防火管理が必要となるのは、次のような建物・場所においてです。
・ 高さ31m超の高層ビル
・ 消防長または消防署長が指定する地下街
・ 準地下街(ビル地階が連続して地下道に面している場合)
・ 特定防火対象物のうち地上3階以上かつ収容人数30人以上のもの
・ 自力での避難が難しい人が多く入所する福祉施設で収容人数が10人以上のもの
・ 2つ以上の非特定用途(百貨店とホテル、オフィスと倉庫など)の防火対象物(複合用途防火対象物)のうち、地上5階以上かつ収容人数50人以上のもの

今回のまとめ

各テナントで防火・防災の対策を講じている状況で、ビルオーナー様が関わる場面は多くはないように思われるかもしれません。しかし、ビルの防火・防災対策の最終的な責任は、ビルオーナー様にあります。また、多くの死傷者を出した雑居ビル火災、東日本大震災での高層ビルの被害などを受け、体制強化のために消防法の改正が行われ、ビル所有者の法的責任も増してきています。
火災を発生させないよう、万一発生した場合には適切な対処ができるよう、消防法の遵守もビルオーナー様の重要な責務として意識し、日頃の対策を怠ることのないようにしましょう。