動物が原因 で出火した火災事例について

この記事は「消防防災博物館」を引用しております。

はじめに

 分電盤やコンセントなどの電気設備から出火した火災や人がいない部屋から出火した火災の原因を調べてみると意外な犯人がいることに気づきます。
 東京消防庁管内(稲城市,東久留米市及び島しょ地域を除いた東京都全域)で,動物(ゴキブリ,ネズミ,ペット等)が関連した火災は,毎年平均20件程度発生しており,これらの火災事例について紹介して行きます。(表1参照)

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表1 動物関連火災状況

事例1 ゴキブリによる火災

 ゴキブリは,人類が地球上に登場するよりも古く,3億年前から生息しているといわれ世界に約 3,500種類。日本で,一般的な種類は,ヤマトゴキブリやクロゴキブリなど体長3㎝程度の大型のものから体長1㎝程度のチャバネゴキブリなどで,家庭やオフィス等で多く見受けられます。

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写真1 出火した室内の状況

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写真2 壁付きコンセント内のゴキブリの状況

火災概要

 この火災は,耐火造3階建て飲食店併用共同住宅1階の飲食店調理場に設置された壁付きコンセントから出火し,1階20㎡が焼損したものです。
 出火した壁付きコンセントは,1年程前から使用されていませんでした。
 焼損状況は,調理場奥の壁に設置されているコンセントから壁に沿って上方に向かって焼損しているのが認められ,壁付きコンセントの焼損は著しく,モールド樹脂の一部にグラファイト化した箇所が認められること。さらに,壁付きコンセントを分解してみると約100匹のチャバネゴキブリの死骸が内部に詰まった状態で認められた。
 出火原因は,壁付きコンセント内の端子間に堆積したチャバネゴキブリの死骸や排泄物を介してトラッキング現象が発生し出火したものです。(写真1,2参照)
 ゴキブリが原因の同様な火災は,95年以降5件発生しており,電子レンジ内の配線や基板部分に付着していたゴキブリの死骸や糞が,回路を形成し出火した事例などがあります。ゴキブリを見かけたら早めに駆除することが必要です。

事例2 ネズミによる火災

 ネズミの行動は夜間が中心で,一日に体重の4分の1の食物を食べるといわれ,食物を求めて身軽に行動し隙間さえあればどこにでも侵入します。
 都市部に生息するネズミの種類については,70年代の高度成長期にビルが増えるにつれて,従来から生息していた大型(体長25㎝程度)のドブネズミから,小型(体長20㎝程度)で,狭い所に入り込みやすく,警戒心の強いクマネズミが増殖してきているといわれています。

火災概要

 この火災は,耐火造9階建て複合用途ビルの地下1階飲食店内の分電盤から出火し,分電盤内の配線若干が焼損したものです。
 出火したのは午前3時ごろで,自動火災報知設備の発報により気づいた警備員が飲食店内の調理場から煙がでているのを確認し,煙の出ている分電盤の扉を開けたところ内部の動力ブレーカーの結線部分にネズミの死骸が挟まり火花が出ているのを発見した。
 出火原因は,動力用分電盤の扉が完全に閉まっていなかったためにネズミが侵入し動力ブレーカーの一次側結線部分に接触したために短絡,電線被覆に着火して出火したものです。(写真3,4参照)
 この他に,ネズミは鋭い歯でなんでも齧ることから壁内や天井裏の屋内配線等を齧ったために短絡出火したものや,冷蔵庫の底部に巣を造りサーミスタにネズミの尿がかかったため絶縁不良を起こし発熱出火したケースなど,いずれの場合もネズミの習性が出火原因に顕著に現れています。
 ネズミによる火災を防ぐためには,糞などを見かけたら早めに駆除すること。火気使用設備にあっては,日頃から清掃や点検を行うこと。変電室やキュービクル設備等については,火災予防条例に基づいた電線管やケーブル等の貫通部の埋め戻し箇所を確認するなどの点検が必要です。

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写真3 出火した分電盤の状況

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写真4 分電盤内部の状況(ネズミが確認できる)

事例3 クモによる火災

 ガス風呂釜からの火災は,年間15件程度発生しており,その原因のほとんどが空焚きとなっています。ここでは,風呂釜内にクモが巣をつくったために火災となった事例を紹介します。

火災概要

 この火災は,住宅敷地内の屋外に設置されたガス風呂釜から出火し,ガス風呂釜1台が焼損したものです。
 出火した風呂釜は,4年前に設置され,これまでに故障はなく,出火前日も異常はありませんでした。火災当日,通常どおり屋内のリモコンスイッチで点火し,5分程すると屋外の風呂釜から白煙が出ているのを発見したものです。
 焼損した風呂釜を分解してみると7本あるバーナーのうち1本が変色しており,変色しているバーナーの混合管部分にクモの巣状のものが認められ,内部にはクモ(体長1㎝弱)の死骸が見分された。
 出火原因は,混合管内にクモが袋状の巣をつくったために,本来,混合管に供給されるはずのガスが溢れてバーナーの炎で引火し,出火したものです。
(図1,写真5,6参照)
 なお,クモについて国立科学博物館に鑑定依頼したところ,クモ目ハエトリグモ科アダンソンハエトリ(メス)と判明。このハエトリグモ科のクモは,約100種類ほどで,夜は巣で寝て昼に活動し,ハエを餌にしており,板と板の隙間やタンス裏などの物陰に数時間で巣を作るとのことです。
 類似火災を防ぐためには,屋外にガス風呂釜を設置する場合は,ブロック等の台に載せ,周囲に雑草等が繁茂しないようにするなどの点検整備が必要です。

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図1 メインバーナーとクモの巣

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写真5 混合管内のクモの巣の状況

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写真6 混合管内から発見されたクモ

事例4 ペットによる火災

 ペットといえば,従来は犬や猫などが中心で,これらペットの火災といえば室内に放し飼いにされていた犬や猫が使用中のストーブに可燃物を落下させたたものや,蚊取線香を布団に接触させたものなどが大半を占めていました。
 しかし,最近のペットブームでは飼育機器の発達や趣味の多様化などから,従来は素人が飼育することが困難とされていた爬虫類や希少価値とされる熱帯魚など,その種類は多種多様に渡っています。

火災概要

(1) プレーリードックによる火災

この火災は,共同住宅の居室内から出火し,室内3㎡が焼損したものです。
 出火原因は,壁付きコンセントに接続していたテーブルタップのコードを室内に放し飼いにしていたプレーリードックが齧ったために短絡し,付近の紙くずに着火し出火したものです。
 同様な事例では,犬やうさぎ,ハムスターなどが電気器具の電源コードを齧ったために短絡し,出火した例があります。

(2) イグアナによる火災

 この火災は,共同住宅の居室内から出火し,室内20㎡が焼損したものです。

 出火原因は,室内でグリーンイグアナやロシア亀などを飼育していましたが,飼育ケース内に設置されていた保温用のスポットライトが何らかの原因で落下し,飼育ケース内に敷かれていたペット用のシートに接触したためにスポットライトの熱により出火したものです。(写真7参照)
 同様な事例では,ウグイスの飼い主がウグイスの鳴く時間を調節するため,タイマーをセットして使用していた白熱電球スタンドに,カーテンが接触していたためカーテンが燃えだした例などがあります。

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写真7 焼損したイグアナの飼育ケースの状況

(3) 飼い猫による火災

 この火災は,住宅の居室内のテレビから出火し,テレビ1台が焼損したものです。 出火原因は,テレビの上を寝場所としていた飼い猫の毛や嘔吐物が,テレビ内に入り込み電源偏向基板上に落下し,付着したため電源偏向基板の抵抗リード線間でトラッキング現象を起こして電源偏向基板に着火して出火したものです。
 ペットによる火災を防ぐためには,留守にする際には放し飼いにしないことや,火気使用器具などをつけたまま外出しないことなど,飼い主の注意が必要です。

事例5 ムササビによる火災

 ムササビは,北海道を除く各地と中国や朝鮮半島に分布するリス科の哺乳類で,森林の樹上に生息し,体長は80㎝程度,体側・四肢と尾のつけ根の間に飛膜があり,10m程度を滑空して樹木から樹木に飛び移ります。

火災概要

 この火災は,郊外の雑木林沿いの歩道上に設置された柱上高圧電線から出火し,電線被覆若干が焼損したものです。
 出火したのは午後10時ごろで,近隣の住民が電柱上の配線からチラチラと炎が上がっているのを発見したもので,電柱の下にはムササビの焼け焦げた死骸が落下していました。
 ムササビを調べてみると体長は約80㎝, 体重800グラムで,顔面や頬,鼻,前歯などが焼け焦げており,頭や足に電撃傷と思われる熱傷が認められました。
 出火原因は,ムササビが電柱に覆い被さるにように繁っていた,けやきの枝から電柱の腕金部分に飛び移り高圧電線(6,600V)の渡り線部分の電線被覆を齧ったため,電線→ムササビ→柱上腕金→電柱アースの経路で地絡したため出火したものです。
 ムササビは,ネズミと同じ夜行性の齧歯類であり,門歯が伸びつづける習性から食物以外の電線被覆を齧ったものと思われます。(写真8,9参照)

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写真8 出火した電柱と周囲の状況

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写真9 電柱下で確認されたムササビの死骸

おわりに

 動物に関連した火災は,いずれも人間の生活圏内に動物が入り込んで発生しており,人間が建物や火気,電気器具等の管理を徹底していれば防げるものであることが再認識させられます。
 しかし,ゴキブリやネズミのように嫌われ者扱いされながらも,たくましく生息しているものもあれば,ペットとして人間から特別な飼育環境を与えられて初めて生息できるものもあり,また,ムササビのように人間と同居しなければならなくなったものなど,人間側の自然保護や環境問題に対する取り組みについても考えさせられ「動物関連火災」は社会的背景を映し出した火災ともいえます。