企業がやるべき停電対策とは
停電対策の必要性とは
情報通信技術が普段の生活やビジネスへ急速に浸透していくことで、電力や通信への依存度が高くなっています。
もしも停電が発生した場合、企業の業務に深刻な影響を与えるため、停電対策の重要性が増しています。そこで、企業の立場から見た「停電対策」についてご紹介します。
停電が起こる8つの原因とは
強風による停電
強風で飛ばされた飛来物(ガラス類、がれき類など)により電線が損傷したり、強風で電柱や送電鉄塔が倒壊する場合もあります。
大雨による停電
大雨により土砂災害が発生し、電柱・電線が損傷したり、洪水等により電気設備が浸水してしまうことがあります。
落雷による停電
電気設備に落雷することで、電線や変圧器などの送電設備が損傷することがあります。
大雪による停電
電線に着雪した重さで損傷したり、周辺の樹木が雪の重みに耐えきれず電線に倒れてしまい損傷することがあります。
地震による停電
地震により地面の液状化や家屋の倒壊が起こり、送配電設備が損傷することがあります。他にも地中に埋設されているケーブルが損傷する可能性などもあります。
火災による停電
火災により送配電設備が損傷する場合や、近隣で火災が発生したときには、消防の指示に基づき、停電させる場合もあります。
車両等による停電
地面を掘削する重機が地中埋設ケーブルを傷つけたり、クレーン車が電線に接触して断線させることがあります。他にも自動車が電柱に衝突するなどの事故も起きています。
動物による停電
鳥が電線に針金などを使って巣作りしたことで、電線が損傷することがあります。毎年春から夏にかけて巣作りが行われるため、電力会社は撤去作業などを実施しています。
自然災害が原因で発生した停電の事例
地震
2018年9月に発生した北海道胆振東部地震では、北海道のほぼ全域(約295万戸)が停電する「ブラックアウト」が発生しました。この停電は、復旧まで約45時間かかりました。
大雨
2021年7月の西日本豪雨では、広島県内の変電所が浸水したこと等により、約25万戸が停電しました。この停電では、復旧までに約1週間かかりました。
強風
2019年9月に上陸した台風15号(令和元年房総半島台風)では、千葉県を中心に送電塔2本と電柱84本が倒壊、約2,000本の電柱が損傷し、約64万戸が停電しました。この停電では、復旧まで2週間近くかかりました。
落雷
2021年7月に上陸した台風8号では、埼玉県内の変電所で落雷により火災が発生し、12万戸以上が停電しました。この停電では、復旧まで約6時間かかりました。
大雪
2022年12月の日本海側を中心とした大雪により、新潟県では積雪に起因する倒木などにより配電線が損傷し、約8.5万戸が停電しました。この停電では、復旧まで約9日間かかりました。
停電が復旧するまでにかかる時間は?
危機管理の担当者等は、停電解消までの目途も気になる所かと思います。
経済産業省の調査資料によれば、概ね1~2日以内に復旧しているそうです。ただ、大災害などが原因の場合、復旧までに数日~数週間かかる場合もあります。
中央防災会議の被害想定では、南海トラフ地震は1~2週間程度、首都直下地震は1か月程度の停電が発生すると試算されています。
復旧まで時間がかかってしまう理由は、停電原因の特定から復旧作業までをマンパワーに頼る必要があるためです。
停電が発生した場合、まずは変電所に近いエリアから順番に電気を流し、停電原因のあるエリアを特定。その後、停電エリアに電力会社のスタッフが緊急出動し、電柱などを1本ずつ調査して原因を除去します。
また、電柱や送電線だけでなく、送電鉄塔や基地局自体が被害を受けている場合、いっきに停電が長期化してしまいます。
そのため、企業は数日間の停電を想定した対策を検討しておく必要があります。
停電により引き起こされる悪影響とは
- オフィスの電気が消える
- 電源に接続していた電子機器類(PC、サーバー等)がシャットダウンする
- エアコンや換気装置などの電化製品が利用できなくなる
- ノートパソコンやスマホ、タブレット等の業務で利用するデバイスが充電できなくなる
- エレベーター、自動ドア、オートロック機能、セキュリティシステム等が利用できなくなる
- 交通機関が麻痺し、帰宅困難者が発生する。
停電による二次災害にも要注意
停電による直接的な被害だけでなく、断水や火災などの二次災害が発生することも少なくありません。
閉じ込め
エレベーターに閉じ込められる。カードキーが使用不可になり、オフィスに閉じ込められる(または入室できない)。
電子機器の故障
停電により強制的にシャットダウンしてしまい、データが消滅する。「通電しない」、「PCからアクセスできない」など、サーバーに不具合が発生してしまう。
通信障害
停電が長引くことで基地局の電源が失われ、通信障害が発生する。基地局には予備電源がありますが、概ね24時間程度までしか持ちません。停電が長期化した場合、通信障害が発生することもあります。
健康被害
エアコンが使えないため、夏は熱中症、冬は低体温症になるリスクがある。人工呼吸器など在宅医療機器に電力を供給できなくなる。
断水
マンションやビルの給水ポンプが停止、浄水場の配水ポンプが停止する等して、断水が起こる。断水によりトイレやシャワーが使用できなくなる。
通電火災
再通電時に壊れたコンセントや断線した電気配線から出火。特に地震後に発生した停電において、多く発生します。ストーブやアイロンなどの電化製品が可燃物に触れたままの状態で再通電し出火してしまう。
ろうそく火災
停電時、照明用に使用したろうそくが倒れてしまい、家具などに燃え移って火災が発生してしまう。
停電時の正しい対処方法とは?
停電が発生した場合は、上記二次災害を防ぐためにも、落ち着いて状況把握を行い、適切な対応を取りましょう。
停電範囲の確認
まずは、停電の範囲がどこまで及んでいるのかを確認。他オフィスや他店舗が停電しているかどうか等を確認したり、電力会社のWebサイトやSNSアカウントから停電情報を確認してください。
長期化しそうなら蓄電システムに切替
停電が長期化しそうであれば、蓄電システムに切り替えることを検討しましょう。あらかじめ備えておいた蓄電池や発電機がある場合は、それらを使用しましょう。ただし、蓄電池などは事前に充電しておく必要があるため、日常的に蓄電池の充電状態を確認しておくことが重要です。
避難時はブレーカー落とす、コンセントを抜く
避難する場合は、電気を切っておくことが重要です。家を出る前にブレーカーを落とし、コンセントからすべての電気製品を抜いておきましょう。これは、火災や漏電の原因となることを防ぐためです。また、電化製品の中には消費電力よりも起動電力の方が大きいものもあり、通電時すべての電化製品が一度に稼働することで、ブレーカーが落ちてしまうこともあります。
漏電ブレーカーをチェック
停電が起きた場合、復旧後に電気が戻った際に漏電ブレーカーが働かなくなっていることがあります。漏電ブレーカーが働かなくなっている場合、漏電が起こっている可能性があるため、電気工事店などに相談しましょう。
企業が実施すべき停電対策とは?
すぐ手の届くところに非常用ライトを用意する
オフィスの出入り口や廊下、トイレなどに非常用ライトを備えておきましょう。特に自衛消防隊や総務部門の危機管理担当者は、従業員の避難誘導や施設内の安全確認を迅速に行う必要があります。自分のデスクにも非常用ライトを常備しておきましょう。
オフィスの空調・換気のための電源を確保する
停電によりエアコンや換気システムが停止してしまうことで、体調不良などに繋がりやすくなります。窓を開けて換気することも可能ですが、真夏や真冬、大雨・大雪時には開けられない可能性も考えられます。空調システム、換気システムのために電源を確保しておく方が安心です。
オフィス停電時は、在宅勤務に切り替える等の代替方法を検討する
停電している地域と停電していない地域を把握し、自宅へ移動したり、別のオフィス・工場に移動する等の対処方法もオススメです。あらかじめ停電発生時の行動フローや、誰が在宅勤務への切替を判断するのか等を検討しておきましょう。
重要なデータを扱う電子機器には、無停電電源装置を用意する
前述したように、停電により強制的にシャットダウン(電源が落ちてしまう)ことで、データが破損したり、システム障害が発生してしまうことがあります。重要なデータを扱うPCやサーバーには、無停電電源装置(UPS)を設置し、突然停電しても一定時間は電源を供給し続けられる状態を確保しておきましょう。また、クラウド上やデータセンター等にデータのバックアップを取っておく等の対処法もオススメです。
バッテリーが搭載されたPCを配布する
従業員が業務などで利用するPCに関しては、常に電力の供給が必要なデスクトップPCではなく、バッテリーを搭載したタイプのPC(ノートPCなど)に切り替えておくことも停電対策に繋がります。
常に稼働し続ける必要があるモノは、あらかじめ複数拠点に分散する
複数の都道府県に事業所を持つ会社の場合、複数拠点にサーバー等を分散配置することもオススメです。特に、重要なデータを扱っている場合や、基幹業務に欠かせないシステムなどは、分散配置を検討しておいた方が良いでしょう。
その際、地震プレートを分けたり、国内・国外で分散する等をしておくと、より安全性が増します。ただ、個人情報保護やお客様との規約上の観点で、国外のデータセンターを利用できない場合も考えられます。事前に情報システム部門や法務部門と確認することを推奨します。
電気自動車(EV)を社用車にする
最近では、環境などへの影響も考えて、電気自動車(EV)やハイブリッドカー(HV)などを社用車にする企業が増えています。これらの車種は、蓄電池としても活用できる場合があるため、停電対策としても有効です。
蓄電池や発電機を備える
蓄電池は、停電前に蓄えておいた電力を供給する構造になっています。製品や利用用途によっても異なりますが、1台でPCを数時間動かせる程度の供給量であることが多いです。
一方、発電機はガソリン等を用いて電力を発生させる構造になっています。燃料がある限り電力を生み続けることができますが、一酸化炭素を排出するため、室内では使用できません。ただ、最近では水で発電する発電機なども流通しているため、製品によっては室内で利用できるものもあります。
利用用途に合わせて最適なバックアップ電源を検討しておくと良いと思います。
自家発電設備を備えたオフィスビルに入居する
前述したように発電機は室内で利用できないため、オフィスビルに入居している会社などでは使えない場合も多いです。ただ、最近ではオフィスビル自体に非常用自家発電設備を備えているケースもあります。停電しても一定の間は電源を確保できるため、オフィスを移転する際には確認してみるのがオススメです。
ソーラーパネルを設置する
近年、自家消費型の太陽光発電設備を備えた物件も増えてきています。自社ビルや工場などを所有する企業は、ソーラーパネルを設置しておくことで、もしものときのバックアップになります。また、大掛かりなソーラーパネル以外にもポータブルソーラー発電機なども流通しているため、停電への備えとして検討するのもオススメです。
断水に備えて非常用トイレを備える
前述したようにマンションやオフィスビル等では、停電時に断水も発生してしまうリスクがあります。人体の構造上、トイレを我慢することは難しいため、非常用トイレを必ず備蓄しておきましょう。
冷蔵庫、冷凍庫を有する場合、保冷グッズなどを備える
業種によっては冷蔵庫や冷凍庫を備えた事業所もあると思います。停電時でも稼働できるように電源を確保したり、保冷剤などのグッズを備蓄しておくことをオススメします。
従業員各自が備えておくべき停電対策グッズとは
感染症などの影響で、在宅勤務などを導入している企業も増えています。そのため、企業BCPを考える場合であっても家庭における停電対策は重要です。従業員各自も最低限の停電対策グッズを備えておくことを推奨します。
非常用ライトを備蓄する
懐中電灯やランタン等の非常用ライトを用意しておきましょう。乾電池式のものか、手回し発電機能のあるライトがオススメです。
携帯用ラジオを備蓄する
停電するとTVが付かなくなり、スマホ等も充電が切れると使えなくなってしまいます。情報を収集するためにもラジオを備蓄しておくと、いざという時に便利です。
非常食、保存水を備蓄する
停電が長期化した場合に備えて、水・食料を備えておきましょう。最近では、普段から多めに食材等を購入しておく、「ローリングストック」が推奨されています。IH式コンロの場合は火を使うことが出来なくなるため、加熱処理が不要の食品を備えておくことが重要です。
非常用トイレを備蓄する
マンションやアパートの場合、停電に伴い断水が発生する可能性もあります。人間は最大でも数時間程度しかトイレを我慢できないと言われています。無理に我慢することで健康被害も考えられますので、非常用トイレをしっかりと準備しておきましょう。
停電情報の確認方法は?
全国に12ある電力会社のWebサイトやSNSアカウントに停電情報が公開されています。
全国12の電力会社は、北海道電力、東北電力、北陸電力、東京電力、中部電力、関西電力、四国電力、中国電力、九州電力、沖縄電力です。
なお、「電力の小売全面自由化」に伴い「新電力」と呼ばれる事業者もたくさん出てきていますが、発電・送電設備は電力会社のものを利用しているため、上記12の電力会社を確認しておけば網羅可能です。
ただし、自分がいる地域以外に所在する事業所や取引先の状況を管理する必要がある担当者(総務部門、調達部門、物流部門のリスク管理者など)は、停電情報にリアルタイムで気づくことが難しい場合も多いと思います。
また、このような担当者にとっては、停電の発生情報だけでなく「復旧情報」も重要です。全国の復旧情報も含めた停電情報に関する通知を受け取りたい場合、有料の災害情報アプリ等を導入されるケースも多いです。