非常用発電機の設置基準及び法令(消防法・電気事業法・建築基準法)
1. 非常用発電設備とは
電力会社から供給される電気が停電となった場合に、自動的にエンジンが起動し電気を供給する装置をいいます。
非常用発電設備は、法律によって設備が義務付けられるもののほか、BCP(事業継続計画)に位置付けられ停電時の業務継続を目的とするものがあります。いずれも、停電時の確実な動作が求められます。
非常用発電設備は、設備全般を建築基準法では、非常用予備発電装置、消防法では非常用電源設備と呼びます。 以下、消防法に順じ説明
非常用発電設備の関係法令
発電機の設置には出力容量、使用用途、設置する地域により関係法令があります。
電気事業法、消防法、建築基準法、大気汚染防止法(大防法)が関わりのある主な法令となります。
項番 | 種類 | 用途 | 内容 | 届け出/規制 | |||
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消防法 | 電気 事業法 | 建築 基準法 | 火災予防条例等 | ||||
1 | 常用発電機 | 常用発電機 | 電力消費量の多い製造工場などではデマンド対策やピークカットを目的として設置される | ◎ 電気工作物として | ◎ 対象火気設備 | ||
2 | 1,2兼用 | 常用/防災 兼用 | ◎ 非常電源として | ◎ 予備電源として | |||
3 | 非常用発電機 | 防災用 | 火災時に消火活動を行う防災設備電源として | ||||
4 | 防災用/保安用 兼用 | 防災用及びバックアップ電源 停電時に医療機器や生産設備、マンションのエレベーター設備などのバックアップ電源を担う | |||||
5 | 保安用 | 停電時に医療機器や生産設備、マンションのエレベーター設備などのバックアップ電源を担う | |||||
6 | BCP用途 | 業継続のための電源として 最近の、台風の大型化や大雨による災害被害の拡大を受けて、物流・冷凍冷蔵倉庫、孵化上、牛乳保管冷蔵庫など、BCP対策として長期間の停電に備えるお客様の需要が急増しています。 |
消防法 消防用設備等の非常電源としての規制
消防設備(消火栓、スプリンクラー設備など ) への電力供給が途絶えた場合の電源。
40 秒以内の電圧確立や、60 分以上の連続運転などを定めています。
対象 | 学校、病院、工場、映画館、百貨店、スーパー、旅館、飲食店、特別養護老人ホーム、商業ビルやテナントビルなど一定規模の不特定多数が出入りする施設(特定建築物)には消防設備を設置する義務があり、火災時の電源供給として防災用非常用発電機や蓄電池設備の設置が必要となります |
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届け出 | 非常用発電機の設置には、防災用か保安兼用に関わらず、所轄の消防署への届け出を要します。 防災用非常用発電機(消火栓ポンプやスプリンクラーなどの負荷と繋げる)の場合は、消防法令による非常電源としての届け出 |
点検業者 | 消防点検業者 |
点検サイクル 法定点検は年2回 | 機器点検・・・6か月 設備の正常な動作を確認することと機器の損傷の有無の確認があり、その結果は報告書に記載し報告する義務があります 総合点検・・・1年 総合的な機能を確認すると共に、30パーセント以上の実負荷運転点検を行うことが義務化されています。 |
「特定建築物」とは、興行場、百貨店、店舗、事務所、学校、共同住宅等の用に供される相当程度の規模を有する建築物
用途 | 規模 | |
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1 | 興行場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館又は遊技場 | 床面積の合計 3000平方メートル以上の建築物 |
2 | 店舗又は事務所 | |
3 | 旅館 | |
4 | 学校教育法第1条に規定する学校以外の学校(研修所を含む。) | 延べ面積が8000平方メートル以上 |
学校、病院、工場、映画館、百貨店、スーパー、旅館、飲食店、特別養護老人ホーム、商業ビルやテナントビルなど一定規模の不特定多数が出入りする施設には消防設備を設置する義務があり、火災時の電源供給として防災用非常用発電機や蓄電池設備の設置が必要となります。
防火対象物(消防用設備の設置義務のある建物)は、消防法の令別表第一というもので分類されています。
防火対象物の一覧表 消防法施行令 別表第1
別表 添付 対象施設 消防法施行令別表1
・特定防火対象物(ホテル、病院、福祉施設、地下街等の不特定多数の者等が出入りする建物)で、収容人員(建物に出入りし、勤務し、居住する人数)が30人以上(入所型福祉施設は、10人以上)
・非特定防火対象物で、収容人員が50人以上
電気事業法 電気工作物としての規制
電気事業法では、常用や非常用を問わず全ての発電機が「電気工作物」のひとつとして取り扱われており、適正な状態で運用維持・管理するため、設置者に対して保安基準に適合することが義務化されています。
●月次点検
月に1回、発電機及び励磁装置の外観に異常があるかどうかの確認をします。
●年次点検
自動起動と自動停止装置の状態に異常はないか、個々の部品の接続箇所や地面との接地面・接続部分に緩みが発生していないかの他、内部蓄電池の漏れや接続と絶縁抵抗値の測定、起動装置と停止装置の動作に異常がないかを確認しなければなりません。
また、平成30年6月からは、5分間程度の空ぶかしによるエンジン試運転の項目が追加されました。
対象 | 内燃機関(エンジン)を搭載する発電機、10kw以上のものは事業用電気工作物の対象となります。 ※ガスタービン式の発電機・非常用発電機は、出力容量の最低基準なくすべて点検対象となります。 |
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届け出 | 設置・維持管理には電気主任技術者の専任と届出が必要 |
点検業者 | 電気保安協会が代表的で、受電盤キュービクルと一緒に非常用発電機も電気設備として定期点検の対象 |
建築基準法:建築設備の予備電源としての規制
建築基準法では、建築物の所有者や施設管理者、占有者は、その建築物の敷地や構造及び建築設備を常に適法な状態に維持しなければならない義務があります。建築物自体に加えて電源設備についても検査の必要があり、非常用発電機に関しては試験回路などにより非常用照明が正しく点灯するかどうかの確認と、発電機の蓄電池触媒栓の有効期限と液漏れなどの確認、保守報告書の記載などが義務化されています。
電力供給が途絶えた場合、排煙機や非常用照明などに供給する電源。
40 秒以内の電圧確立や、30 分以上の連続運転などを定めています。
対象 | 学校、病院、工場、映画館、百貨店、スーパー、旅館、飲食店、特別養護老人ホーム、商業ビルやテナントビルなど一定規模の不特定多数が出入りする施設(特定建築物)には消防設備を設置する義務があり、火災時の電源供給として防災用非常用発電機や蓄電池設備の設置が必要となります |
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届け出 | 確認申請、確認審査及び検査 建築主は建築確認が必要な建築物を建築しようとする場合、建築主事等に建築確認申請を行い、建築主事等はこの申請に基づき審査し、工事完了時には建築法令に適合しているかを検査する。 自家用発電装置の申請、審査及び検査は、この一連の流れの中で建築設備の一つとして行われる。 |
点検サイクル | 建築確認が必要な建築物で特定行政庁が指定するものの建築設備は、おおむね6ヶ 月から1年までの間隔で、定期的検査と報告が義務づけられている また、建築設備の予備電源として設置される自家用発電装置については建築確認における定期的検査の中で行 われる。 |
特記事項 | ※予備電源として設置される自家用発電装置や蓄電池設備の構造及び性能については、 国土交通省告示等では基準が定められていない。そのため、消防法で規定する非常電 源の技術基準に適合するものが、建築基準法の予備電源の構造基準を満たしているも のとして取り扱われる |
確認申請を要する建築物(建築基準法第6条第1項)
下記の用途に供する特殊建築物。
・劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場
・病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る)
ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎、児童福祉施設等(令19条参照)
・学校、体育館、博物館、美術館、図書館
・ボーリング場、スキー場、スケート場、水泳場、スポーツ練習場
・百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、待合、料理店、飲食店、物品販売業を営む店舗(床面積が10㎡以内のものを除く)
・倉庫。・自動車車庫、自動車修理工場、映画スタジオ、テレビスタジオ
建築設備(排煙設備、換気設備、非常用の照明設備及び防火設備)、昇降機、工作物(遊戯施設等)については、毎年報告が必要です。
非常用発電機の負荷運転点検
負荷運転点検は発電機性能に対して最低30%以上の負荷を投入することが求められます。
負荷運転点検は実負荷運転点検と擬似負荷運転点検どちらでも認められます。
実負荷運転点検とは、非常用発電機を起動し防災負荷を動かす試験です。
施設によっては停電を要します。
また防災業者との連携も必要となり、実施までのご負担が大きくなります。
擬似負荷運転点検とは、非常用発電機と防災負荷を試験中は切り離します。
負荷試験機を用いて、非常用発電機の二次側と接続し投入負荷を調整しながら電流値を計測できます。
停電は必要なく、負荷試験機など最小限の準備で試験実施が可能です。
消防法の改正
2019年6月1日付け
●「非常電源(自家発電設備)の点検の基準」 消防庁告示第12号 により改正
●「非常電源(自家発電設備)の点検要領」 消防予第 373号 により改正
改正の背景
大型台風の増加、大雨の浸水被害など異常気象による甚大な被害を及ぼす自然災害が毎年のように発生するようになりました。
先の東日本大震災や熊本地震におきまして、災害時に動かない非常用発電機が多い実態が社会問題化となり各市議会や新聞・テレビなどのマスコミにもこの問題は多くの機会で取り上げられました。
これは、長期間、非常用発電機の消耗品を交換していないなど、整備不良が主な原因と言われております。
また、総務省消防庁では、平成28年9月に発表した自家発電機の劣化調査報告によると、自家発電機の負荷点検不備による、驚くべき危険な状況が報告されており、30%負荷試験点検と合わせて、整備点検の法的指導を提言しております
平成30年6月1日に施行された消防法の改正では毎年必ず実施が義務付けられていた負荷運転点検の取り扱いが下記表のように変わりました。
内部監察等とは?
負荷運転点検に加え代替方法として内部監察等も認められました。
騒音や排煙など周辺環境が負荷運転点検実施に不向きな場合に用いられます。
内部監察等とは、通常の点検作業では出来ない清掃作業や劣化部品の交換、調整を主目的したオーバーホールに該当する整備になります。
内部監察等は分解整備となるため、負荷運転点検に比べて日数を要します。
内部監察等のおおよその費用 700,000円~
(内部監察等はエンジンの排気量、シリンダー数、部品価格により大きく変動します。)
コストメリットの他に騒音、煤煙クレーム等も考慮、検討されることをお勧めします。
消防法改正の改訂ポイントまとめ (非常用発電機に該当する部分のみ)
旧 | 新 |
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負荷運転点検のみ | 負荷運転点検の代替として ※内部監察等を追加 |
負荷運転点検を毎年必ず実施 | "最長6年に1度の負荷運転点検周期を延長 ※予防的な保全策が毎年講じられている場合のみ" |
全ての自家発電設備に負荷運転が必要 | ガスタービンは免除 |
喚起性能点検は負荷運転点検時にのみ実施 | 無負荷運転時の実施で可 |
※今後は負荷運転点検実施の報告有無が厳しく運用管理されます。
負荷運転点検の点検周期を延長できる予防的保全措置とは?
消防法では電気事業法の定期点検に加え、消防法に即した機器点検と総合点検があります。
その総合点検の点検項目のうち、非常用発電機に関する点検項目に年に一度の負荷運転点検が義務付けられています。
平成30年6月に毎年の負荷運転点検実施に代わり、予防的な保全策(予防的保全措置)が毎年講じられている場合のみ、最大6年間の免除を受けられる運用改訂が行われました。
「予防的保全措置」とは
非常用発電機はオイルや冷却水、ホース類やベルト類など使用の有無に関わらず消耗品は経年劣化をします。
メーカーが定めた期間内に交換整備を実施し、整備記録を残すことで、負荷運転点検実施初年度から最長6年まで試験周期を延長できます。
これを「予防的保全措置」といいます。
一般的な管理用語として、「予防保全」「予防保全策」ともいいます。
予防的保全措置のおおよその費用 200,000円~
(予防的保全措置は、発電機により大きく変動します。)
負荷運転点検と予防的保全措置のコスト比較《よくある質問》
「負荷運転点検を毎年した方が予防保全措置より費用が抑えられるのでは?」
⇒ コストのみの単純比較では、負荷運転点検を毎年行う方が費用は抑えられます。
負荷運転点検はあくまで発電機の発電性能を客観的に見るために行うもので
消耗品や構成部品の経年劣化を防ぐ効果はありません。
コンプライアンス対応の負荷運転点検実施と非常用発電機の維持、長寿命化のための予防的保全措置を組み合わせ、ライフサイクルコストを重視した計画保全が重要になります。