高齢者・障害者を助けるための個別避難計画
近年の豪雨災害の犠牲者のうち、高齢者が高い割合を占めています。こうした中、高齢者や障害者などを守る対策として注目されているのが「個別避難計画」です。避難に支援が必要な人を自治体が名簿化し、一人ひとりの避難計画を作ることで“みんなが助かる”ことを目指しています。一方で、計画の作成には、多くの課題も見えてきています。
これだけは知っておきたい、個別避難計画づくりの現状
▼2021年に災害対策基本法が改正され、市町村に個別避難計画を作成する努力義務が課せられた。
▼個別避難計画の策定率が伸びない理由のひとつに、“支援者”の確保の大変さがある。
▼自治体ではなく、民間のマンションで自主的に避難計画づくりを進めているところがある。
個別避難計画とは何か?
「個別避難計画」とは、高齢者や障害者など支援を必要とする人たちの避難計画を一人ひとりの状況に合わせて事前に作成しておき、災害時に備えるものです。
- いつ
- どこへ
- 誰と一緒に
- どうやって逃げるか
などを具体的に決めておきます。
個別避難計画の対象となる人たちを「避難行動要支援者」と呼びます。
介護が必要な高齢者、障害のある方、難病を患っている方、乳幼児、妊産婦、外国人などが対象
2021年、災害対策基本法が改正され、個別避難計画を作成する努力義務が市町村に課せられました。
跡見学園女子大学教授で、内閣府の制度作りにも携わっている鍵屋一(かぎや・はじめ)さんは、「(都会では隣近所の)つながりがない状況にある。そういう時に災害が襲ってきたらどうなるかを知ってほしい」と、個別避難計画の必要性を訴えています。
なぜ必要なのか?それは近年頻発する豪雨災害で、被害が高齢者に集中している現状があります。
2018年7月の西日本豪雨で最大の死者を出した岡山県倉敷市真備町では、犠牲者51人のうち45人が、65歳以上の高齢者でした。
個別避難計画の作り方
個別避難計画はどのように作られるのでしょうか?
①高齢者や障害者など、自力で避難が困難な人を自治体が調べ、名簿を作ります。これを「避難行動要支援者名簿」といいます。
②自治体は、要支援者本人に対して「名簿の登録」と「支援者への情報公開」の同意を確認します。
③要支援者からの同意が得られると、自治体は地域の自治会や民生委員、福祉関係者に情報を提供します。
④どのような支援が必要か、自治体・支援者(福祉関係者など)・要支援者が話し合いながら計画を作成します。
⑤それぞれが計画書を管理して、災害に備えます。
自分が住んでいる地域の個別避難計画の作成状況は、市町村のホームページで調べられます。防災担当窓口に電話で尋ねることも可能です。
要支援者名簿への登録を自分で申請することもできます。例えば妊娠していて自力での避難が難しいと思う人は、お住まいの自治体の防災担当にご相談ください。
策定率10%、なぜ?
支援が必要な人々の命を守るために大切な個別避難計画ですが、全国の自治体での策定率は、現在10%にすぎません。
理由のひとつに、「支援者」を確保することが難しいという現実があります。
●なぜ計画が進まない?自治体の悩み
個別避難計画の策定が進まない理由として、ほかにもさまざまな問題点が考えられます。
内閣府は解決方法を探ろうと、2021年から「個別避難計画モデル事業」を行い、成果の発表とノウハウの共有を行っています。
【自治体の悩み・1】 要支援者名簿を毎年見直さなければいけない
要支援者の介護度が変化したり、在宅介護から施設に移ったりなどすると、何年か前に作った情報のままでは役に立ちません。毎年見直すべきなのはわかっているものの、なかなか着手できないのが現状です。
【自治体の悩み・2】 名簿の開示に同意してもらえない
自分の個人情報を地域に公開していいのか、要支援者の多くが悩んでいます。自治体の名簿への登録は了承しても、デリケートな情報だけに地域の自治会への情報提供は拒否する方が多く存在しています。
【自治体の悩み・3】 行政主導には限界がある。地域の理解が得られないと難しい
「地域のコミュニティがふだんからお祭りなどで顔がつながっていれば、『そういうことなら手伝おうか』となりますが、そうでなければ地域が理解するのはなかなか難しい。どれだけ自治体が計画を作成しようとしても進まないのです」