病院BCPの第一歩である停電対策 命を守るための電気設備
病院BCPの第一歩である停電対策は、患者の生命を守るために必要不可欠。災害時、停電しても電力を供給することができる非常用電源(発電機)の種類や特徴などを紹介します。
病院の停電対策になぜ非常用発電源が必要なのか
近年、大型台風や豪雨、大規模地震などが頻発しています。自然災害によりライフラインが寸断されることも多く、特に途絶されがちなのが電力。電柱や変電所に直接的な被害を受けるケースが多いのがその原因と言えます。
電力の復旧には時間がかかり、停電が2~3週間と長くなることも少なくありません。病院では24時間365日患者の生命を維持する医療器具が稼働しており、非常用電源設備が整備されていなければ患者の生命が奪われてしまう可能性も出てきます。
参照元:厚生労働省「災害拠点病院の指定要件の見直しについて(2019年5月)」(PDF)(https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/000511798.pdf)、参照元:経済産業省「令和元年に発生した災害の概要と対応(2019年12月)」(PDF)(https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/pdf/021_01_00.pdf)
非常用電源の種類
一口に非常用発電機といっても、LPガス、ディーゼル、医療用蓄電池、太陽光発電など、さまざまな種類があります。それぞれの特徴やよいところ、弱点について説明します。
LPガス発電機
LPガス発電機とは
バルクやガスシリンダーに貯蔵されたガスを燃料としてエンジンを回す発電機です。エンジンを動力として回るオルタネータが電気をつくり供給されます。メリットが多いことから近年、非常用電源として注目されています。
LPガス発電機のよいところ
- 災害により供給が途絶されることがなく、72時間以上の連続稼働が可能なため、災害時に強い。
- 排ガスに含まれる二酸化炭素が少ないため、黒煙などを含まずクリーンかつ静音で環境に優しい。
- メンテナンスが容易でコストも抑えることができる。
LPガス発電機の弱点
- ディーゼル発電機などと比較すると製品の種類が少ない。
- ガソリンやディーゼルと比較すると若干燃費が高くなる。
参照元:ISG発電システム(https://www.isgnet.jp/hatsuden/lpg-generator/)
ディーゼル発電機
ディーゼル発電機とは
一般的な非常用発電機として広く普及しており、ディーゼルエンジンを主機関とする発電機。軽油を燃料として稼働することで電力を供給することができます。
ディーゼル発電機のよいところ
- 発電効率がよく、燃料が比較的安価である。
- 小型から大型まで機種が豊富である。
- コンパクトなものもあり、屋上設置にも対応している。
ディーゼル発電機の弱点
- 排ガスや、稼働の振動による騒音が気になる場合がある。
- 燃料の備蓄が必要となるが、劣化しやすい。
- 非常時のみの稼働ではいざという時に動かないこともあり、定期的な点検も必要である。
医療用蓄電池
医療用蓄電池とは
平時に電力を蓄えて必要な時に電力を供給できるシステム。太陽光発電システムと併用して使用されることも多く、一般家庭用とは別に病院で使用することを目的として開発されたものです。
医療用蓄電池のよいところ
- 持ち運び、操作が簡単で電力を供給したい機器をピンポイントでバックアップできる。
- 太陽光発電設備と併用しない独立したタイプもある。
- 太陽光や、電気自動車などを活用した蓄電が可能。
医療用蓄電池の弱点
- 使用可能時間の目安は10時間程度。
- 長期間使用できないため、バックアップ電源につなぐまでの応急的な電源。
太陽光発電
太陽光発電とは
太陽光発電とは、太陽光パネルで受けた熱を電気エネルギーに変換するシステムです。病院内の敷地や屋上などにも設置することが可能で、燃料を必要としないエコでクリーンな電力源と言えます。
太陽光発電のよいところ
- 燃料を必要とせず、ライフラインに影響されない。
- 蓄電池と併用することで、電力を蓄えることが可能。
- エコでクリーンなエネルギーであるため、病院という環境にも合っている。
太陽光発電の弱点
- 発電出力が太陽光に左右されるため、電力供給が不安定。
- 屋外設置される太陽光パネルが災害により損壊する可能性がある。
参照元:経済産業省 資源エネルギー庁(https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/solar/index.html)、参照元:経済産業省「今夏の太陽電池発電設備の事故の特徴について(2018年11月)」(PDF)(https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/denryoku_anzen/newenergy_hatsuden_wg/pdf/014_01_00.pdf)
コージェネレーション
コージェネレーションとは
ガスや化石燃料などを駆動源として、発電機から電力を生み出すシステム。排熱を給湯や冷暖房に利用することも可能です。建築設備用には、天然ガスを熱源としたガスコージェネレーションも普及しています。
コージェネレーションのよいところ
- 「発電機」と「熱源」を一体化した設備で、限られたエネルギーを最大限に活用できる。
- 停電時には、発電機を停止し、電力会社との連系を解除した状態で施設内において電力を供給できる。
コージェネレーションの弱点
- 導入に比較的高額な費用がかかる。
- 高温となる排気はそのまま利用できないため、熱交換設備が必要となる。
参照元:Daigas_非常用発電機兼用ガスコージェネレーションシステム(https://ene.osakagas.co.jp/product/cogeneration/power-supply/emergency.html)、電気設備の知識と技術_新エネルギー発電の知識_コージェネレーションシステムの仕組み(https://electric-facilities.jp/denki2/coge.html)
病院の停電対策
条件、目的に合わせて選定することが重要
医療施設の種類や規模の大小にもよりますが、総じて長時間稼働を可能にする非常用電源の確保が望ましいと考えます。
特に入院病棟(ICU・NICU含む)や手術設備、透析設備など命に関わる医療設備を持つ施設は、医療用UPS(無停電電源装置)に加えて長時間稼働する非常用電源の確保は最優先事項です。
選択肢は、①ディーゼル発電機+備蓄油庫 ②LPガス発電機 ③太陽光発電システム+蓄電池(常用発電) ④コージェネレーションシステム(常用発電)などのいずれか単独あるいは併用が考えられます。
それぞれにメリット・デメリットがありますので、条件、目的に合わせて選定する必要があります。