自然災害時の事業運営における労働基準法や労働契約法の取扱いなどに関するQ&A
厚生労働省
(令和3年7月 15 日)
Q1-1 被災により、事業の休止などを余儀なくされ、やむを得ず休業とする場
合にどのようなことに心がければよいのでしょうか。
A1-1 被災により、事業の休止などを余儀なくされた場合において、労働者を
休業させるときには、労使がよく話し合って労働者の不利益を回避するよ
うに努力することが大切であるとともに、休業を余儀なくされた場合の支
援策も活用し、労働者の保護を図るようお願いいたします。
支援策としては、災害時における雇用保険制度の特別措置や雇用調整
助成金があります。詳しくは、最寄りの都道府県労働局またはハローワ
ークにお問い合わせください。
【雇用保険の特別措置の内容】
災害救助法の適用地域内に所在地を置く事業所が、災害により事
業を休止・廃止したために、一時的に離職した方については、事業
再開後の再雇用が予定されている場合であっても、雇用保険の基本
手当を受給できます。また、激甚災害法に基づく政令が制定された
場合には、対象地域に所在する事業所が災害で休業したことによ
り、被保険者が休業して賃金を受けられない場合についても基本手
当を受給できます。(※)
※受給要件(雇用保険の被保険者期間が 6 か月以上など)を満た
す方が対象となります。また、この特別措置を受けた方について
は、再度離職した際の雇用保険の基本手当の給付日数等に影響する
場合があります。
Q1-2 従来、労働契約や労働協約、就業規則、労使慣行に基づき、使用者の責
に帰すべき休業のみならず、天災地変等の不可抗力による休業について休
業中の時間についての賃金、手当等を支払うこととしている企業が、災害
に伴う休業について、休業中の時間についての賃金、手当等を支払わない
とすることは、適法なのでしょうか。
A1-2 労働契約や労働協約、就業規則、労使慣行に基づき、使用者の責めに帰
すべき休業や天変地変等の不可抗力による休業中に従来支払われてきた
賃金、手当等を、災害に伴う休業について支払わないとすることは、労働
条件の不利益変更に該当します。
このため、労働者との合意など、労働契約や労働協約、就業規則等のそ
れぞれについての適法な変更手続をとらずに、賃金、手当等の取扱いを変
更する(支払わないこととする)ことはできません。
なお、企業側の都合で休業させた場合には、労働者に休業手当を支払う
必要があります。これについて Q1-4・A1-4 及び Q1-5・A1-5 において、最
低労働条件として労働基準法第26条に基づく休業手当に係る取扱いを
示していますが、これは上記で述べている労働契約や労働協約、就業規則、
労使慣行に基づく賃金、手当等の取扱いを示したものではありませんの
で、ご留意ください。
Q1-3 災害のために、休業しようと思います。この休業に伴い、休業について
の手当を支払う場合、雇用調整助成金を受給することはできますか。実施
した休業が労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休
業」に該当するか否かでその扱いは異なるのですか。
A1-3 雇用調整助成金は、景気の変動、産業構造の変化その他の「経済上の理
由」により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、その雇用する労
働者を対象に休業等を実施したうえ、休業手当等の支払いを行うことによ
り、雇用の維持を図る事業主に対し、休業手当等の一部を助成するもので
す。
事故または災害により施設等が被害を受けたことは「経済上の理由」と
はならず、雇用調整助成金の支給対象とはなりませんが、自然災害の長期
化や復旧までに長時間を要する場合等には、交通手段の途絶等により原材
料の入手、製品の出荷が困難であることや、事業所等が損壊し修理業者の
手配や修理部品の調達が困難となったこと等を理由とし、事業活動の縮小
が行われた場合は、「経済上の理由」に該当し雇用調整助成金の対象となる
可能性がありますので、最寄りの労働局またはハローワークにお問い合わ
せください。
本助成金は、労働基準法第26条に定める使用者の責に帰すべき事由に
よる休業に該当するか否かによって、その扱いが異なることはありませ
ん。
Q1-4 災害により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け労働者を休業さ
せる場合、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」による休
業に当たるでしょうか。
A1-4 災害により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け労働者を休業さ
せる場合であっても、労使がよく話し合って、休業中の手当の水準、休業
日や休業時間の設定等について、労働者の不利益を回避する努力をお願い
します。また、労働基準法上の休業手当の要否にかかわらず、経済上の理
由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対しては、雇用調整助
成金が、事業主が支払った休業手当の額に応じて支払われます。
労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合
には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)
を支払わなければならないとされています。
ただし、天災事変等の不可抗力の場合は、使用者の責に帰すべき事由に
当たらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗
力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主
が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできな
い事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解さ
れています。
災害により、事業場の施設・設備が直接的な被害を受け、その結果、労
働者を休業させる場合は、休業の原因が事業主の関与の範囲外のものであ
り、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けること
のできない事故に該当すると考えられますので、原則として使用者の責に
帰すべき事由による休業には該当しないと考えられます。なお、Q1-2・A1-
2 及び Q1-3・A1-3 もご覧ください。
Q1-5 災害により、事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていませんが、
取引先や鉄道・道路が被害を受け、原材料の仕入、製品の納入等が不可能
となったことにより労働者を休業させる場合、「使用者の責に帰すべき事
由」による休業に当たるでしょうか。
A1-5 災害により、事業場の施設・設備は直接的な被害を受けていない場合に
は、原則として「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当すると考
えられます。ただし、休業について、①その原因が事業の外部より発生し
た事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くして
もなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たす場合
には、例外的に「使用者の責に帰すべき事由」による休業には該当しない
と考えられます。具体的には、取引先への依存の程度、輸送経路の状況、
他の代替手段の可能性、災害発生からの期間、使用者としての休業回避の
ための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考えられま
す。なお、Q1-2・A1-2 及び Q1-3・A1-3 もご覧ください。